帯広で映画を観た!シネマ de 十勝は、帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女子が、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民として、十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格の実力を発揮しつつ、帯広・十勝の話をしつつ、映画を語るコラムです。今週の映画は『フロマージュ・ジャポネ Fromage Japonais』です。
前回のコラム「帯広で映画を観た!」はコチラ
見た後にチーズが食べたくなるドキュメンタリー
日本のチーズの歴史から、プロセスチーズ製造の技術力の高さ、ナチュラルチーズに携わる職人達のこだわりなどが紹介されています。
取り上げられている20の企業・生産者のうち北海道は7、その内の4が十勝関係分です。
・音更町・十勝品質事業協同組合(十勝プライド)
・芽室町・TOYO Cheese Factory
・足寄町・しあわせチーズ工房
結構な割合ですね!
しあわせチーズ工房は映画『帯広ガストロノミー』にも登場しました。
こちらは「幸(さち)」で「World Cheese Awards 2022」スーパー金賞を受賞した工房です。
この他に十勝品質事業協同組合の、日本唯一の共同庫で熟成されるモール温泉水で磨いた「十勝モールウォッシュラクレット」の話が出てくる際に、ガーデンスパ十勝川温泉(音更町)の「いで湯の磐座」の映像が、エンドロールではオンネトー(足寄町)が登場します。
『フロマージュ・ジャポネ』は監督が「地元」での上映を劇場支配人に掛け合い、シネマ太陽帯広での期間限定上映が実現しました。
(10/3までです! 興味のある方はお急ぎください!)
「300人の観客」が集まった舞台挨拶
私が見に行ったのは9/20の公開初日。
たまたま休みで、TOYO Cheese Factoryの代表取締役・長原覚さん、取締役・長原ちさとさん、NORIZO監督による舞台挨拶付きの回を鑑賞することができました。
この回は平日日中だったのと、前夜祭として大規模なイベントが開かれていたこともあり、「300人の観客」が集まっていました。
「300人」は関係者から出たジョークにせよ、知人・関係者を除いても、土日休みの人が多い中で平日にしては人が集まっており、注目度は高いように感じました。
少し残念なことに、監督さん一人の撮影・編集のため音声の悪い箇所がありますが、総じて興味深いドキュメンタリーでした。
(ピンマイクを着けてもらってその音声を被せようにも、マイクすら音がうまく拾えていない。
やり直しもきかないので音が悪くてもそのまま行くしかない、という事態。
あと一歩、十勝に踏み込んで欲しいと感じた
感想としては
「十勝の関係者が取り上げられていて嬉しい!」
「でも、もう少し踏み込んでくれてもよかったんじゃないかなぁ!?」です。
身びいきも大いにありつつ、痒いところへの手の届かなさというのか、食い足りなさを覚えました。
登場する人数も多いし、仕方のないことかもしれませんが……。
(気になった人は「後は自分で調べてください」にせよ)
例えば、東陽製袋株式会社が母体の、TOYO Cheese Factory。
大手乳業メーカーと個人チーズ工房の中間に位置する企業で、自社のミルクローリーを所有しています。
撮影時は会員制での販売。(現在はチーズブランド「age(エイジ)」サイトから購入可能です)
平日は芽室の工場を見学できます。(事前予約制)
といったところまでは触れられていたのですが。
長原ちさとさんが話している間、後ろに映る賞状やメダル、プレート群が何なのかという点には触れられず……。
第3回日本最優秀フロマジェ選手権大会で優勝。
(チーズの知識だけでなくテイスティングやカッティング、盛り付け技術等、複数種目で競うもの)
その世界大会となる第5回世界最優秀フロマジェコンクールで第3位となったことを知らないと、まず「なぜこの人がインタビューを受けているのか?」すら伝わりにくいのでは、と勿体無く思いました。
世界第3位のフロマジェであるところをピックアップし、長原ちさとさんの生け花ならぬチーズプラトー作品、登場するかと思っていたんですけどねーー。残念!!!
(チーズで作った「折り鶴」モチーフのプレートとか、好きです!)
TOYOさんに限らず「ここに興味が湧いてきましたわ。もう少し教えて!」と思ったら放り出される感覚。
とても痒かったです!!
作中に登場するのは「World Cheese Awards」入賞者であるとかチーズ関係の何らかの功績者、と関係者には自明のことかもしれません。
ですが日本のチーズについての普及を目的とした作品である以上、素人向けに「この人・この工房が登場する理由」部分は、もう少し掘り下げられていても良かったように思います。
ドキュメンタリーならではの「リアル」が伝わってくる
ともあれ、施設見学のできる企業は、強い!!
(そういうレイアウトで建物を造れるとか、人員配置できるとか、一部工程でも見せてまずいところがないとオープンにできるとか)
十勝の乳業関係でいえばTOYOさん以外にも、よつ葉主管工場(音更町)や明治なるほどファクトリー十勝(芽室町)が事前予約制で見学を受け付けています。
そんな持論でしたが、作中では「それは見せない方がいい……」と思われる工房も混じっていたのがすごかったです。
いくらドキュメンタリーとはいえ、食品の前でマスクなしで喋り、素手でチーズを触っていたり……。
私、怖い話が苦手なので某SFホラー映画を避けているんですが、思わぬ伏兵にやられました。
ちなみに、大手でなくても、私の知る個人工房も工程内に入る人は、防塵服&手袋・足カバー&衛生キャップ&マスク着用はマストでございました。
そうした舞台裏を見せてもらえた箇所もあり、「ここのチーズは食べたくないわ〜」「ここのは食べてみたい!」と知ることができただけでも価値があったと思います。
私、映画でも時々「テンポがかったるくてキツい……」となるため、ドキュメンタリーに耐えられるのか事前に心配していました。
『フロマージュ・ジャポネ』は最後まで興味深く鑑賞することができました。
大手・個人の枠を超えた職人達の仕事術とプライドを垣間見ることができて、良かったです。
(どんなジャンルでも、プロフェッショナルや職人さんが好き!)
時には話が入ってこなくなるくらい、チーズ関係ない部分も面白かったです。
素人相手のドキュメンタリーなので、二人一組でインタビューを受けている時、「今話してる方」ではない人の目や表情が死んでるとか。
マーモットTシャツ可愛いとか。
最近ではもう珍しくなってしまった『意識高い系コンサルスタイル※』の使い手が登場するとか。
(※スーツではない「少しオフダウンしました」という服装で、手はろくろを回すようなポージングを基本に、大仰な手振りを交えて話す)
しかし『令和の米騒動』で「お米がないから生産者に問い合わせたけれど10キロ4000円は高い」などと普段お米を買っているとは思えない、むしろ「この人、普段何を食べているんだろう?」的なことを言っていた人達にとっては、チーズはとんでもない贅沢品でしょう。
「チーズは必需品ではない」
ということは登場する人物の口からも語られます。
神々ならぬ「貴族達の遊び」、かもしれません。
確かに実家や企業のバックの「太さ」を感じる工房も多々ありましたが、ドキュメンタリーの中でその貴族的な部分が隠されていないところも良かったです。
一つのジャンルが発展するには、「そこに金鉱がある」というお金の「におい」と「うねり」が大事で、市場がより拡大し普及していくためには大事な点だと思うので。
日本産チーズに興味が湧いてくる作品
『フロマージュ・ジャポネ』という作品の後味の良さは「都心までのアクセスがよく、作った乳製品を運ぶのに利便性が高い」等、それぞれの長所は示されるも、地域差・企業・工房の差といったそれぞれの分断を目的とはしていないことです。
ナチュラルチーズとプロセスチーズ(ナチュラルチーズをベースに一度加熱して解かし、ブレンドしたり伸ばすなどして加工したもの)も、「プロセスチーズが広まることでナチュラルチーズの普及に繋がる」等、決して敵ではなく、お互いの長所・短所を補い合う存在であることが強調されています。
最初はフランスなどの工房を手本に、切磋琢磨し育まれてきた日本のチーズ。
今や全国各地の工房で、発酵文化をベースに醸された、匂いも味も繊細なクオリティの高いチーズが作られています。
日本のチーズの良さ・底力を伝える一方で
「ここまで力を蓄え成長した日本のチーズで、今こそ力を合わせてEU商圏を開拓しよう!」
と言わんばかりの、マイルドな宣戦布告状ともとれるドキュメンタリー。
シネマ太陽帯広で10/3までの上映です。
PROFILE
三崎 裕美子 | 腐女子 / 総統
1980年生まれ。北海道帯広市出身|釧路→新橋のサラリーマン(港区女子)→などを経て基本帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女。しかしてその実体は、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民。十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格。同年生まれのハリー・ポッター氏が通うホグワーツ・スリザリン寮に組み分けされたかったゲラート・グリンデルバルド信奉者。