【書評】本の虫 小川の本棚 「つめたいよるに」presented by Book cafe & bar Sen 064

作品名：つめたいよるに
著者：江國香織
出版社：新潮社

いまだに色褪せない、読書が好きになる名作

今から約30年前に出版されたこの本は、時の経過をまったく感じさせないほどの名作です。

全体で213ページにわたるこの本には、なんと21もの短編ストーリーが収録されています。それぞれの物語がぎゅっと詰まっており、まるで、あの「金のエンゼル」のくちばしを手にした瞬間のような、特別で貴重な魅力を持っています。

そのうえ、単純計算をすると、1つのストーリーはだいたい10ページ程度という短さになり、読書に苦手意識を持っている人でも、一つ一つの物語に気軽に取り組むことができます。このように各ストーリーが短いと、これから読書を始めてみようと考えている初心者にとっても非常にありがたく、無理なく読めるため、読書のハードルがぐっと低く感じられるのです。

そのため、読書経験が少ない方や、長編に挑むのが苦手な方には特におすすめです。

 

あなたはいくつのストーリーに心を奪われる？

誤解を恐れずに言うと、読み手の感想は本当に自由。高田純二さんに負けないくらいの自由さだと思っている。

もちろん、１冊まるっと感動する人もいれば、半分だけ心が動かされる人もいる。いや、ひとつも心がときめかない人がいたとしても、それは決しておかしいことではない。

そうした自由な感想を前提にすると、ボクの中で特に強く印象に残っているのは全体の約1/3といったところ。読み終えたあと、もう一度ページを読み直してみると、どうやら「絆」をテーマにしたストーリーに特に心を奪われたのかもしれない。普段は感動しないでお馴染みのおがわも、今回は柄にもなく、ペットとの絆や年配の人と子どもとの心のつながり、友情に特に弱くなっていた様子。

はい。おがわも人間の心を取り戻したのです。

この１冊は、まるでお菓子のバラエティパックのように、さまざまな種類のストーリーが詰まっている。もちろん、どのストーリーも全体的にほの甘い系統で統一されており、違和感を感じることはないのです。その中には、きっとあなたの好みに合うものも含まれているはずなのでタイトルを見て、気になる部分から読み始めてみるのも一つの楽しみ方かもしれません。

読書を普及するならスタート本に選定しよう

ボクは、Bookカフェのオーナーという立場から「本を紹介してほしい」と頼まれることがよくあある。その依頼は、何冊も読破してきたような黒帯レベルの読書家から、活字にアレルギーがあると言う読書ビギナーまで、幅広い方々から相談だ。

特に、読書習慣のない人に対して本を選ぶのは非常に難しい。本にはさまざまなジャンルがあり、詩集や名言集など、比較的「文字」が少ないものを選びがちだが、相手が求めているのは時々、小説だったりする。

その時、心の中で「注文が多いなあ」とか「ちょっと欲張りすぎじゃない？」なんて思うこともありますが、それでもニコニコと笑顔を保ちながら、数冊の本を提案します。（真意についてはご想像にお任せしますが…）

そんな中、この『つめたいよるに』は短編の中でもさらに短く、まるで砂糖をたっぷり入れたカフェオレのような、ほっこりとした温かみを感じる一冊。短いけれど、心にじんわりと響く、そんな余韻を楽しんでもらえるかもしれません。

 

読書ビギナーに相談されたらオススメするスターティングメンバーに仲間入りの１冊です。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。