1月16日に帝国ホテル(東京)で催された「第49回 経済界大賞」は、大賞を受賞した伊藤忠商事の岡藤正広 会長をはじめ、優秀経営者に輝いたNEC・大和ハウス工業など錚々たる企業のトップが勢揃いする一大イベント。毎年、政財界の動向を占う舞台としても注目されます。そんな華やかな式典で、一風変わった存在感を放ったのが北海道十勝帯広に拠点を置くスタートアップ「エアシェア」の進藤寛也CEO。起業家向けビジネスピッチコンテスト「経済界GoldenPitch」で見事、審査員特別賞をかっさらったのです。
しかしながら、地方発スタートアップが全国規模のビジネスアワードで表彰されること自体が“前代未聞”というわけではないものの、名だたる大企業の経営者と同じ檀上に立つ姿は、まさに“玉石混交”の中から掘り出された原石のよう。果たしてエアシェアのビジネスモデルは、いかなる光と影を孕んでいるのでしょうか。
大賞は伊藤忠商事の岡藤会長、圧巻の企業陣に肩を並べる快挙
茂木 友三郎(キッコーマン名誉会長 / カメラマン:山内 信也)
今回の経済界大賞は、伊藤忠商事の岡藤正広 会長CEOが大賞を受賞。そのほかにも大和ハウス工業やNECといった国内経済を牽引する企業のトップらが名を連ねました。ベンチャー部門では、宇宙ゴミ回収に挑むアストロスケールホールディングス、空港タクシー相乗りサービスのNearMeといった革新的企業が選ばれ、会場はスタートアップ熱が沸騰するかのような盛り上がりを見せました。
岡藤会長(伊藤忠商事 / カメラマン:山内 信也)
そんな日本を代表する経営者の晴れ舞台で、日本の東の端に近い帯広市の経営者が審査員特別賞を射止めたのは“異例”。主催側である経済界の関係者も、「ここ最近のGoldenPitch受賞者の中でも、地方発でこれほど注目を集めるケースは珍しい」と驚きを隠せません。
“飛行機のライドシェア”が帯広から全国区に
エアシェアのサービスは、稼働していないプライベート機とパイロット、そして移動したい旅行者をオンラインでマッチングするという、いわば“空のライドシェア”であり、日本初のビジネスモデル。今回、進藤氏が表彰を勝ち取った理由のひとつが、エアシェアが提供する“航空機シェアリングサービスの革新性です。
空を自由に移動したい旅行者と、セスナ機やヘリコプターなどの航空機オーナーと、プロのパイロットをオンラインでマッチングするシェアリングサービスです。
観光客やビジネスパーソンたちが小型機で日本の空を自由に気軽に行き来できるようになれば、地域の観光産業に新たな追い風をもたらします。その可能性を高く評価した審査委員からは、「地方の過疎地が抱える交通課題の解決策として、大きなインパクトを与える」との声も上がりました。
“航空機シェアリング”の衝撃… 絶賛の裏に潜む不安要素
観光客からすれば「便利で画期的」との声が上がる一方、航空法や安全対策の面で本当に問題はないのか、という“懸念”も常につきまといます。
進藤CEO曰く、国土交通省からはすでに適法性を認められているとはいえ、ひとたび事故が起これば厳しい目が向けられること必至。絶体絶命の窮地が訪れる可能性を指摘する声も皆無ではありません。しかし、そうした逆風があってなお、多くの観光地が過疎化に直面するなかで「エアシェアこそが一石二鳥の救世主になる」と期待する人々もいるのです。
審査員特別賞の意味…「地方 × 規制突破」の評価
GoldenPitchの審査員長・各務茂夫(東京大学大学院教授)は、エアシェアの受賞理由についてこう語ります。
「ロケット開発やAIといったテーマに比べれば、航空機シェアは地味に見えるかもしれない。しかし、地方が抱える交通網の脆弱性と、法規制の厚い壁を同時に攻略しようとしている点が評価ポイントでした。そもそも道路や鉄道が行き届かない地域も多い日本で、空を活用する発想は決して絵空事ではない。そこに今後の成長余地を感じました」
確かに、観光客が大型航空会社の路線だけではカバーしきれないエリアに自由にアクセスできるようになれば、地方創生の切り札となる可能性は否めません。審査員特別賞は、グランプリには届かなかったものの、将来性の高さを示す“期待の裏返し”と言えるでしょう。
進藤氏コメント「ここからが本当のテイクオフです!」
カメラマン:山内 信也
受賞者インタビューの場で、進藤氏は興奮気味にこう語りました。
「このような名誉ある賞を十勝へ持ち帰れることは、本当に光栄です。エアシェアは、使われずに眠っている資源(航空機)を再活用することで新たな価値を生み出すビジネス。まだ道半ばですが、今回の審査員特別賞を足がかりに、全国に“空のシェアリング”の魅力を伝えていきたい。ここからが本当のテイクオフだと思っています」
さらに進藤氏は、次なる構想として、レンタカーと運転手を別々に契約する新サービス「DRIVA(ドライバ)」にも言及。「空と地上をつなげる一貫した移動プラットフォームを構築し、日本中をもっと便利に、そして楽しくしたい」とその意気込みを語りました。
大手企業と並ぶ“帯広発”スタートアップの底力
審査員長を務めた東京大学大学院工学系研究科・各務茂夫教授は、「エアシェアのアイデアは地域課題の解決と観光振興を同時に狙える柔軟性がある。地方発のベンチャーとして、全国のモデルになるかもしれない」と絶賛。
地方創生やベンチャー支援を目指す経済界GoldenPitchにおいて、エアシェアが今回のように大舞台で表彰された意義は大きいと言えます。岡藤会長や大和ハウス工業の芳井社長、NECの森田社長といった経済界の“ビッグネーム”と肩を並べたことで、エアシェアの名は一気に全国区へと駆け上がりました。
北海道十勝から羽ばたく、新時代の交通イノベーション
今回の受賞を機に、エアシェアのビジネスモデルはますます進化するでしょう。世界的にも例の少ない航空機シェアリングを普及させるうえで、国土交通省の規制や航空安全対策など多くのハードルが待ち構えます。しかし進藤氏は「その1つ1つを乗り越えていくのがスタートアップの使命」と力強く語っています。
画像 / 経済界提供
地方発スタートアップとして堂々の“審査員特別賞”。 北海道帯広という地方から、規制が厳しい航空分野に挑む“冒険者”が現れたことは日本のスタートアップシーンを刺激するはず。十勝の地から日本中、そして世界へと翔(かけ)るエアシェアの姿は、まるで滑走路を疾走する飛行機そのもの。果たしてこのビジネスが、私たちの移動手段をどこまで変えてくれるのか――。次なる一手から目が離せません。
そして、「これからは帯広から世界を見渡す時代。エアシェアが示す“空”のシェアリングこそ、新時代のイノベーションになるかもしれない」と、経済界の識者も期待を寄せています。