【書評】本の虫 小川の本棚 「ぼくの色、見つけた！」presented by Book cafe & bar Sen 102

作品名：ぼくの色、見つけた！
著者：志津栄子
出版社：講談社

再会から購入へと繋がった１冊

積読とまではいかないけれど、気になる本というのはいくつかある。

スマホのメモ機能にタイトルを残したり、気になった本の情報をスクリーンショットして保存したりしている。

「いつか読むかもしれない」と思ってはいるけれど、なかなか購入には至らない。

プロスポーツでいうところの“２軍”のような存在。

読書好きであれば、そんな“２軍”を何冊も抱えている人も多いのではないだろうか。

先日、いつもの本屋さんをぶらぶら徘徊していたとき、その“２軍”の本とまさかの再会を果たした。

思わず、市原悦子よろしく「あらやだ」と声が漏れ、気づいたら手に取り、そのままレジへ向かっていた。

「きっと書店には置いていないだろう」と勝手に思い込んでいたからこそ、余計に運命的な出合いに感じた１冊だ。

この偶然のタイミングこそが、いま読むべきタイミングだったのだろう。

本との出合いは、予定調和ではなく、偶然のように見せかけた必然なのかもしれない。

 

色覚障害に踏み込んだ児童文学に注目

第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書（小学校高学年の部）にも選ばれた本作。

2025年の中学入試では、暁星・大妻・学芸大附属小金井・横浜雙葉など、全国の学校で出題された注目作。

ちゅうでん児童文学賞で大賞を受賞した志津栄子さんによる、待望の新作だ。

主人公・信太朗は、トマトの赤がわからない。肉が焼けたタイミングも見分けがつかない。

そんな日常の中から「色覚障がい」がわかる。けれど、それがわかったからといって、すぐに生きやすくなるわけじゃない。

母は無意識に「かわいそう」と口にし、クラスの友だちは、本人に悪気はなくても無理解なまま接してくる。

似顔絵のくちびるが「茶色」に塗られ、それを笑われた時、信太朗はすっかり自信をなくしてしまう。

「色覚障がい」は、見えない障がいのひとつ。本人の努力ではどうにもならないことを、まわりはなかなか理解してくれない。

それでも信太朗は、ある出会いをきっかけに、少しずつ自分の見ている世界に自信を取り戻していく。

この物語は、「見え方が違うこと」だけではなく、「感じ方が違うこと」まで優しく描いている。
子どもにも、大人にも読んでほしい。

違いを理解することは、誰かを知ることだけじゃなく、自分を知ることにもつながっていると、そっと教えてくれる1冊だ。

ずっと忘れていたことを思い出させてくれた

本当に今さらなのだけれど、この本を読んで思い出したことがある。

もっと言えば、小学生だった当時はなんの感情も湧かず、記憶にも残っていなかったようなことだ。

それは、ボクの父が「色覚障がい」だったということ。

当時のボクは「へえ、そうなんだ」くらいにしか思っていなかった。

でも、長距離トラックの運転手をしていた父にとって、見えにくい世界での運転は、相当な苦労があったはずだ。

この本にも出てくるが、信号の色がわからない。

うっすらと「点灯している場所で判断している」と話していた記憶はあるが、その苦労まで想像することはなかった。

もちろん、日常の中にも不便なことがたくさんあったに違いない。

もしこの本をもっと早く読んでいたら（まあ、当時は出版されていないのだけど）、もう少し父に寄り添ったり、ちゃんと話を聞いたりできたのではないか。

そんな思いが、ページをめくるごとにこみあげてきた。

この本は、児童文学賞の大賞を受賞している。つまり、児童文学というジャンルの中で評価された作品だ。

けれど内容は、子どもたちだけでなく、大人にとっても大切なことが詰まっている。

多様性の時代だからこそ、小さな頃から“違い”にふれるきっかけをつくってくれるこの本に、心から敬意を表したい。

 

この作品が、色覚障がいという見えにくい困りごとを、多くの人に知ってもらうきっかけになればと願っている。もちろん、ストーリー自体もとても面白くて、読みものとしても抜群に楽しめる１冊だ。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。