【書評】本の虫 小川の本棚 「つながりのことば学」presented by Book cafe & bar Sen 106

作品名：つながりのことば学
著者：齋藤陽道
出版社：NHK出版

推しがくれた〝ことば〟のごちそう

何を隠そう――〝齋藤陽道〟さんは、おがわの推しである。

彼との出会いは、カメラマンとしての齋藤陽道だった。ボクの大好きなMr.Childrenのアルバムジャケットを手がけていたことを知り、そこから彼の活動に注目するようになった。

写真集、エッセイ、漫画、絵本――彼が世に出す作品にはひと通り目を通してきたけれど、その中でいつも感じることがある。それは、「言葉のチカラ」だ。

うまく言葉にはできないのだが、どの作品にも、まっすぐに心の核に届くような“ことば”がある。

この本も、読書が苦手な人でも2時間ほどで読み切れるコンパクトな作品（全125ページ）。ページの合間に彼の写真も挟まれており、言葉と写真の両方から齋藤陽道の世界を堪能できる。

作家としての齋藤陽道と、写真家としての齋藤陽道。

その両方が「ことば」を通して響き合う、贅沢な1冊です。

手話を生きる著者だからこそ語れるコミュニケーションの「そもそも」

ボクがずっと推している写真家・齋藤陽道さんは、ただの「カメラマン」ではない。

NHK「おかあさんといっしょ」のエンディング曲『きんらきら ぽん』の作詞を手がけ、手話を「ことば」として生きる、唯一無二の表現者だ。

彼は、幼いころに「手話を使ってはいけない」と言われて育った。言葉を奪われ、心とことばが切り離された幼少期。

しかし高校時代に手話と出会い、初めて「会話ってこんなに楽しいんだ」と感じたという。

そこから彼は、言葉と向き合い、写真とともに生きるようになる。他者と心の底でつながりたいという思いが、彼をシャッターの前に立たせ続けた。

「言葉の共有地」「言葉の解像度」「消感動と宿感動」「存在を聴く」――

これらの視点は、ただ便利なコミュニケーション術とはまったく違う。

言葉が伝わらない痛みを知る彼だからこそ語れる、“ことば”と“他者”の本質が、ここにはある。

人とのつながりに悩んでいる人、
言葉に振り回されている人、

そして、“本当に伝えるってなんだろう？”と立ち止まったことのある人に、ぜひ読んでほしい。

考えたこともなかった〝当たり前〟に気が付かされる

前述したとおり、この本は、だいたい２時間もあれば読み終えるくらいのボリュームだ。

それなのに、読み終わったあとには、まるで分厚い本をじっくり読み込んだような充実感が残った。

さらに驚いたのは、心に残る言葉の多さ。気づけば付箋を貼ったページがどんどん増えていった。

そんな“心に留めた言葉”をすべて紹介するのは難しいけれど、ひとつだけ、特に印象に残っている言葉を紹介したい。

もちろん、文脈なしにこの一文だけを抜き出せば、どう受け取ればいいのか戸惑う人もいるかもしれない。

けれど、それでもいいと思っている。この言葉は、この言葉として受け取ってもらえたら、と。

言葉には、いろんな形がある。

声に出して話す言葉、手話で表す言葉、文章として書く言葉。

そして、写真や絵に込める言葉もある。

でも「誰かのために」と意識しすぎると、その言葉は少しずつ弱くなってしまうのかもしれない。

自分の内側からにじみ出る言葉こそ、本当に届くのだと思う。

この一文は、ボク自身——絵本作家・おがわひろきにとっても、大きな影響を与えてくれた。

あなたは、どの一文に魅了されるだろう。

あなたの心に残るその言葉が、この本との特別な出会いになるかもしれない。

手話を生きる著者の「言葉」の先にある「ことば」を感じられるこの本は、きっと、あなた自身の“言葉のチカラ”を育ててくれることでしょう。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。