【書評】本の虫 小川の本棚 「ADHDの僕が苦手とされる事務にとことん向き合ってみた。」presented by Book cafe & bar Sen 111

作品名：ADHDの僕が苦手とされる事務にとことん向き合ってみた。
著者：小鳥遊（たかなし）
出版社：大和書房

タイトルに共感し、ヒントになると思い購入

まず前提として、「事務仕事が得意です！」と胸を張れる人はどれくらいいるのでしょうか。

ボクは仕事柄、なんでも屋のようなところがあり、当然のように事務仕事も担当する。

毎月だいたい同じ流れの繰り返しなのに、「あ、やるの忘れてた！」と夜な夜な取り組む日々。
まるで自分の頭の中に“事務忘却スイッチ”がついているかのようだ。

そんなボクのスマホ画面に広告として現れたのが、この本。
はい、買うっきゃない。むしろ運命だ。

障がい福祉業界という職業柄もあり、ADHDの人が事務仕事に向かない理由も知っている。
だからこそ、この本の内容に自然と興味が湧いた。

自分事としての興味と、専門職としての興味の二刀流でポチッとした一冊。
誰でも使える「型」を知ることで、毎日の事務作業もずっと楽になるはず。
これで夜な夜なの「事務忘却スイッチ」も少しは休憩できるかな、と期待している。

仕事の成果は「事務」にある

目的を達成するために欠かせないのは、地味だけれど確実に現実を前に進めるプロセス。
この本では、その「足元を固める仕組み」をあえて「事務」と定義している。
そう、派手な仕事術や一発逆転のテクニックではなく、地味だけれど確実に効く、あの事務です。

ADHD傾向のある人が特に苦手とされる「事務」。
でも本書では、ADHD当事者の著者が、自分自身の失敗や迷走も赤裸々に語りながら、事務を味方につけるプロセスを紹介している。
「事務の話なんて退屈すぎる」と思ったあなたも、読み進めるうちに少しずつ「なるほど、これは使える」と感じるはずだ。

□抜け漏れ、ケアレスミス
□先送りグセ
□段取り下手
□過度な自責傾向と豆腐メンタル　……etc.

もし一つでも心当たりがあるなら、本書を手に取る価値あり。
やる気や集中力の波に振り回される日々とも、少しずつ距離を置きながら、「やるべきこと」をサクサクこなす感覚を手に入れるヒントが満載。

ちょっとした工夫で、面倒な事務も怖くなくなる。
そして、今日もまた「事務なんて面倒だ！」と愚痴をこぼす自分に、そっと笑いながらも救いの手を差し伸べてくれることでしょう。

「なるほど！」と思ったところから実践してみる

ボクは年間で120冊以上の本を読む。しかし、ただ読むだけでは意味がない。大事にしているのは、どれだけたくさん読んだかではなく、ひとつの本からどれだけ学び、それを行動に移せるか、だ。

とはいえ、ハウツー本を読んで「全部試そう！」とすると、キリがなくなってしまう。だからボクは「なるほど！」と思ったものだけ、実際に試すことにしている。

本書では、「仕事を手順に分解する」と書かれている。どんなに大きな仕事でも、細かく分解すれば取り組みやすくなる、というのだ。なるほど、これはすぐに試せそうだ。さらに、分解したそれぞれに締め切りをつけていけば、もう直前にバタバタすることもなくなるはず……。

と、言いたいところだが、実はこの原稿、締め切りギリギリに書いている。うーん、分解も締め切り管理も、まだ修行が必要なようだ。

それでも、この本を読めば「たしかに」「なるほど」と思うことが連発。仕事やタスクへの苦手意識を、そっと軽くしてくれる一冊になることは間違いないだろう。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。