【書評】本の虫 小川の本棚 「運転者」presented by Book cafe & bar Sen 121

作品名：運転者
著者：喜多川泰
出版社：Discover

今回はこの本の力を借りよう──そう思って再読した１冊

この本が発行されたのは2019年3月。
それから何度も読み返してきたので、正直あらすじは完璧に頭に入っている。

それでも今回、もう一度この本を手に取ったのには理由がある。

ボクが運営している“不登校の子のための居場所”を利用する、ある女の子の話を聞いたからだ。

ある日の何気ない会話の中で、彼女が「クリスマスにギターを買ってもらう予定なんだ」と教えてくれた。

そこから、ボクが知っている知識を総動員して、地元・帯広に在住する中学生が音楽活動をしており、さまざまなイベントに出演している話を伝えた。

すると彼女の表情がパッと明るくなり、

「この曲を弾きたい」
「親友と組んで歌ってもらう約束をしているんだ」

と、未来の話がどんどん溢れてきた。

その瞬間、胸がじんわり温かくなった。そして同時に思ったのだ。

「あ、もう一度あの物語を読もう」と。

あらすじを知っているからこそ、今の彼女の状況と物語が重なり合う部分が見えてくる。
きっと、この本が必要な情報をくれるはずだ──。

そう確信して、再読を決めた。

運を「転」ずる──人生どん底から始まる、奇跡のタクシー物語

中年に差しかかった主人公・修一は、歩合制の保険営業へ転職して３年目。

努力しても結果がついてこない日々が続き、胸の奥にはいつも小さな焦りが渦巻いていた。

そんなある日、顧客が突然の大量解約。

経済的にも精神的にも一気に追い詰められ、積み上げてきたものが音を立てて崩れていく。

楽しみにしていた家族旅行は白紙にするしかない。

不登校の娘の学費も、このままではままならない。

そんな中で、長いこと帰れていない実家の母から電話があり、それも胸に重くのしかかる。

「……なんで俺ばっかり、こんな目にあうんだよ」

と思わず漏れたその独り言。
その瞬間、目の前にゆっくりとタクシーが現れる。

「乗客の“運”を“転”ずる」

そんな謎めいた不思議なタクシーだったのだ。

人生に行き詰まった男が、思いがけない出会いを通して少しずつ変わっていく物語。

読んだあと、あなたの“運”もすこし動き出すかもしれない。

運は“良い・悪い”ではなく、「貯めて使う」ものだった

まず、この本を読む時はひとつだけ注意してほしい。

それは、付箋かメモ帳を必ず用意すること。

ページの角を折る“ドッグイヤー”で管理しようものなら……全ページ折る羽目になる。
それくらい名言がぎっしり詰まった１冊なのだ。

そんな中で、ボクが一番衝撃を受けたのは、

〝運は、貯めて使うポイントカードのようなもの〟と教えてくれたことだ。

正直、初めて読んだときは「へ？」と思った。

それまでは、運がいいとか悪いとか、単純にその日の調子の問題だと思っていたからだ。

けれど、この本を何度も読むうちに、考え方が完全にひっくり返った。

そして今回、再読に至った理由はただひとつ。
運を、ちゃんと“貯め直そう”と思ったからだ。内容についてはあえて多く語らない。

しかし、ひとつだけ言わせてほしい。

この本を読み終えたその日に、ボクはギターを買った。
自分用に。しかも勢いではなく“確信”で。

なぜか？
それは、この本を読めば必ず分かる。

“運を貯める”という発想に触れた時、あなたもきっと何かを始めたくなるはずだ。
そして貯める理由だって納得できるはずだ。

あなたの人生の価値観が一変するこの作品は、喜多川泰さんファンの多くの人も、数ある作品の中でも推している１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）を出版。毎週金にスマヒロで書評を担当。