政府が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを5類に引き下げたことを受け、「待っていました」と、需要回復の期待を高めたのが観光業界でしょう。そんな中、アウトドアとサウナ需要を掴もうと、運営する新得町の「湯宿くったり温泉レイクイン」にヴィラ2棟とキャンピングトレーラーを新設した有限会社ホテル十勝屋の後藤陽介社長をインタビュー。サウナブームを牽引する十勝サウナ協議会の初代会長でもある後藤社長が描くホテルビジネスとは?仕事やキャリアについて「横顔」をご紹介します。
PROFILE
後藤 陽介 | ごとう ようすけ
有限会社ホテル十勝屋取締役社長、十勝サウナ協議会会長。1987年生まれ、帯広市育ち。北海道銀行を経て稼業のホテル十勝屋に入社。2018年取締役社長に就任。2020年十勝サウナ協議会会長に就任。趣味はサウナとバスケットボール。
コロナ禍でもピンチはチャンスと攻めの経営を展開
帯広駅前の「十勝ガーデンズホテル」や新得町にある「湯宿くったり温泉レイクイン」など複数のホテルを運営する有限会社ホテル十勝屋。今回の主人公・後藤陽介さんが社長に就任したのは2018年でした。
後藤社長が「社長就任後、札幌のホテルを傘下に収め『ここから!』と思った頃に新型コロナの流行でした。いまでこそ、社長就任して5年目ですが良い思い出はないですよ」と振り返る通り、2020年当初から流行った新型コロナウイルスの影響は、前述した今年5月の5類への引き下げまで続きます。
それでも、有限会社ホテル十勝屋は観光需要がメインの札幌のホテルを除けば、十勝で運営するホテルへの影響は軽微だったと言います。
「軽微と言っても、観光業一本で成り立っているホテルと比べてです。まさに農業王国十勝の力のおかげです。流行当初は日本全国で外出を控える動きが強かったのですが、その後はコロナ禍ではあったものの、屋外での商談が多い農業関係のビジネス需要はそれほど減らず、気をつけながら出張するビジネスパーソンの宿泊に支えられました。トータルでみると稼働率は7割ほどで推移していました。とはいえ、宴会需要は限りなくゼロでしたから、辛い3年間であったことに間違いはありません」(後藤社長)
とはいえ、宴会ゼロ、3年以上続いた長期的な稼働率の低下が経営に影響を及ぼさないわけはありません。世界的な観光市場の低迷は、廃業や事業縮小に伴う解雇といった、苦渋の決断を強いられた経営者は多い。そんな厳しい中でも、有限会社ホテル十勝屋は従業員を減らすという選択肢はありませんでした。むしろ「チャンスはピンチ」と捉え、後藤社長は攻めの経営を貫いたと言います。
2021年には同年5月に閉業したピア7(帯広市西2南7)を取得し、長期滞在者向けのビジネスホテル「十勝ウィークリーイン」として開業。また、十勝ガーデンズホテルの老朽した立体駐車場を解体し、十勝産ジャガイモスイーツを柱としたテークアウト店「Brand new Tokachi」をオープン。ジャガイモでは珍しい「ポテトけんぴ」が人気を博しているそう。
さらに、後藤社長が会長を務める十勝サウナ協議会が企画した、湖の冷水につかってクールダウンする本場フィンランドのサウナ文化を再現した「北海道アヴァント」も好調で「冬季限定ですが、湯宿くったり温泉レイク・インの需要増にも繋がっています」(同)とアフターコロナを見据えた投資とコロナ禍だからこその発想の転換など、矢継ぎ早に手を打ってきました。
父からの教えとバンカー時代の経験
僅かな社長歴ながら、繰り出す戦略の数々。こうした経営センスはどこで磨かれたのでしょう。
後藤社長は、幼い頃から家業であるホテル業を継ぐために費やしてきたことは言うまでもありません。ただ、ホテル業を継ぐための王道である大手ホテルでの修行はせず、父親からの「経営感覚を学べ」との教えから、大学卒業後には北海道銀行へ入行。バンカーとして7年間、多くの企業経営者と接することで経営感覚を身につけていきます。
「父からは、ホテル経営者ではなく企業経営者を目指せと教えられました」(後藤社長)
そんな後藤社長には、バンカー時代の忘れられないエピソードがあるそうです。
「バンカー時代、成功している経営者で横柄な方はいませんでした。むしろ低姿勢の方々ばかり。わたしの拙い金融商品の提案に対しても真摯に対応してくれました。忘れられないのは、バンカーとして自信を持って提案した金融商品を断られたことがあったんです。その社長はいつも提案を受けてくれる方でした。しかも、今回は最も自信のある商品でした。『どうして断られたのだろう』と疑問を抱きながら持ち帰りました。ところが、その後、提案した商品は大きく損を出すことになりました。その社長はしっかりと先を見通していたんですね。いつもニコニコ、優しい社長の印象でしたが、手腕は本物だったことを思い知らせましたよ」(後藤社長)
そうして2018年、実家のホテルでの仕事を引き継ぎ取締役社長に就任します。その後の活躍については前述したとおりですね。
社長就任から5年目を迎えた後藤社長。コロナという荒波を乗り越え、何を見据えているのでしょう。
「社長就任から5年目に入りました。これまでは多少の投資ではありましたが戦略的な経営判断を下しつつ、常に現場にいることが私のしごとでした。徹底的に現場を知ることに費やしてきた5年でしたね。ですが、今後はアフターコロナ以降の経営を見据えて、組織改革や筋肉質な経営体質への転換を促します」と意欲を語る後藤社長。
ホテル数の増加と家族経営から企業経営へ
先代時代よりもホテル数も増えました。従業員も増え、家族経営から企業経営へと脱皮しつつある同社。新時代を任された後藤社長の次の一手とは?
「先代が社長を務めていた頃からの従業員もいます。もちろん新しい世代もどんどん入社しています。ホテル数も増えて、新事業も立ち上がりつつあります。多岐にわたる業務と増加する従業員と共に効率的な運営をするには、今一度、組織改革が必要だと思っています。指揮命令系統の見える化や授業員の評価制度といった組織改革をはじめとする経営体質の転換が必要です。いわゆる筋肉質な会社組織にするべく時がきたと感じています。新事業を立ち上げること以上に困難でしょう。それでも、いま着手しなくては将来の当社の行く末に関わる事項なんです」
先代からバトンを受けて5年。助走期間は終わりました。社長後藤陽介の経営手腕はこれから発揮されることでしょう。
7月1日、新生「レイクイン」がオープン
後藤社長に共感を抱いた方は、先ずは十勝ガーデンズホテルへの宿泊をおすすめします。サウナをこよなく愛し、十勝サウナ協議会の初代会長でもある後藤社長が力を注いだサウナを体験できますよ。さらに、冒頭にお伝えした同社が運営する新得町の「湯宿くったり温泉レイクイン」に宿とは独立したヴィラ2棟とキャンピングトレーラーが7月1日にオープンする予定です。夏場にアヴァントは体験できませんが、BBQ、キャンプ、森林散策、カヌー体験など北海道十勝のアウトドアを存分に味わってください。