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帯広で映画を観た!シネマ de 十勝 映画『オッペンハイマー』〜腐女子の“迷い”道案内_Vol.04

帯広で映画を観た!シネマ de 十勝は、帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女子が、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民として、十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格の実力を発揮しつつ、帯広・十勝の話をしつつ、映画を語るコラムです。

前回のコラム「帯広で映画を観た!」はコチラ

今週は『オッペンハイマー』! そうそう!こういう作品が見たくて映画を見続けているんだよ!!私、震えています!

『オッペンハイマー』

この映画は、見る前から「恐らく十勝とは結び付けられない」と予測していました。
それでも、そのテーマ性から例外的に取り上げると決めていました。
結論から言うと、とても良かったです。久々に大作です。

しかし見る前はドキドキだったのです。
ただでさえ、トイレ近い派には心配でしかない3時間越えの作品。
それ以上に、一番怖れていたのは日本についての描写でした。

ユニバーサル作品の国内配給を主に担っている東宝東和が引き、2023年7月の全米公開から遅れること半年以上。日本では2024年3月29日、ようやくビターズ・エンド配給で公開が始まりました。(この間に作品賞、主演・助演男優賞含む、アカデミー賞7部門で受賞)

今週の画像は映画にあわせたイメージ画像です。

その経緯だけでも、

「どれだけセンシティブな内容なの!?」
「そこまで日本人の反応を警戒するような展開が!?」
「時々、撮りたいものを優先しているようなクリストファー・ノーラン監督の、オタク特有のこだわりが前面に出ている方の作品なんじゃ……?」

(同じオタでも趣味・嗜好が違うと、腐女子と夢女子の間に流れる川のようなものを感じるときがある)とハラハラしていました。

むしろ見た後、拍子抜けしたくらいです。
(某SNSで140字以下の文章ですら、書いていないことに勝手に怒っている人の多さを見ると、警戒するのも分からなくもないんですが……)

実在の人物・出来事をモチーフにした作品としては『アマデウス』『シンドラーのリスト』『JFK』の系譜に連なるだろう、硬派な作品でした。『メメント』から『ダンケルク』といった同監督作品の流れを受けた集大成のようにも感じられました。

半生をそのまま描くだけでなく、ミステリ要素も含まれており、長尺でも最後まで気の抜けない展開が続きます。

人の顔が判別できない私でも、見分けのつきやすいイケオジがたくさん登場しますしね!

『市民ケーン』の「薔薇のつぼみ」ほど、明らかな謎は最初には提示されませんが、ある言葉がきっかけで引火し延焼した出来事の真相が終盤で明かされます。(『アマデウス』のサリエリのような情念も!)

人間関係に違和感はったけれど、完全に油断していて「やられたあっ!!」となりました。

さて本作品の本筋ではない魅力は、物理学の大家がゴロゴロ登場することです。

今回最も推せる物理学者は、以下の2人

まず1人目は『ボヘミン・ラプソディ』で主役のフレディを演じたラミ・マレック。
今回、登場するたびオッペンハイマーに邪険にされペンを落とされます。
そんな彼が3回目の登場時はどう出るか、刮目してご覧ください!!
(役名を言ったら分かる人には分かってしまうので秘します)

そして2人目は、アインシュタイン!
ロスアラモスの原発開発には携わっていなくても、要所要所でキーパーソンとして登場します。
アインシュタインとオッペンハイマーとの会話は、よーく覚えておいていただきたいです!
テストに出ます!!(私のようにボーッと生きていると、ラストで「以前どんなお話されてましたっけ?」状態に陥ります)

他に『ご冗談でしょう、ファインマンさん』シリーズが好きなので、作中で名前は呼ばれないけれど、ボンゴを叩いている人を見て「ファインマンさんだ!」と嬉しくなっちゃいました。

詳しい人は、もっと萌えられるのではないかと思います。

物理学者でも全く推せはしないんですが、“原爆の父”はオッペンハイマーですが、”水爆の父”と呼ばれたのはテラー(肩幅広い人)というも大事なことなので、押さえておいてください!

知っててもドキドキした三大オッペンハイマー!

リンゴ事件

これが成功していたら序盤で「オッペンハイマー・完」になってしまうので、大丈夫だと分かるし知ってはいても、ハラハラして会話が入ってきませんでした!

トリニティ実験

全般にどこか不穏な音楽が効果的に流れる中、逆に音を引いた演出に痺れた!!

グローブス大佐

オッペンハイマー本人の姿に近づけるため厳しい減量をしていた主演のキリアン・マーフィーとは真逆に「マット・デイモン!? ファンファン大佐みたくなっている君は、マット・デイモンなのかい!?」となりました。「あなた出てました!? ええ、あの役ですと!?」なゲイリー・オールドマンについても同上。

鑑賞前に知っておくと理解しやすい(かもしれない)ポイント!

クリストファー・ノーラン監督というと、時間軸の魔術師(!?)。話が時系列通りには進みません。

「◯◯といえば――」というふうに過去話に戻ったりします。

私は気にならなかったし、見にくさは感じなかったのですが。

それって自分が普段している話法だからで……。あっちこっちに跳躍する『オタクの話し方』とでもいいましょうか、慣れていない人にそれがどう受け止められるのかは、分かりかねます……。

「1.FISSION(核分裂)」

オッペンハイマー視点で描かれるカラー映像パート※1954年「聴聞会」など

「2.FUSION(核融合)」

スクローズ視点で描かれる白黒映像パート※1959年の「公聴会」など
FISSION BOMB(原爆)の父オッペンハイマー。FUSION BOMB(水爆)を推進したスクローズ。それぞれの立場からオッペンハイマーという人物が描かれます。カラーと白黒の映像が、主に下の年表の中で交差していきます。

1925年 リンゴ事件。天才だけど実験が苦手で追い詰められ精神分裂症が極まっていた
1929年  兼任でカリフォルニア大学バークレー校・カリフォルニア工科大学に赴任
1942年 グローブス大佐と出会う。マンハッタン計画責任者に
1943年 ロスアラモス国立研究所 初代所長に
1945年 7月 トリニティ実験成功 10月 トルーマン大統領と面会
1947年 プリンストン高等研究所所長に(ストローズと出会う)
1949年 (ロシアが原爆実験に成功 ストローズは水爆にこだわる)
1954年 マッカーシズム「赤狩り」の流れを受け、ロシアのスパイ容疑で「聴聞会」で詰められる
1959年 (ストローズを商務長官に任命するか否かの「公聴会」が開かれる)

この作品に描かれていたのは、”原爆の父”の「苦悩」そして「反戦」へのメッセージ。

確かに、映画本編には日本に投下された原爆の映像も、その後の惨劇も挿入されてはいません。しかし、それらの映像を直視できないオッペンハイマーの姿を通じ、間接話法で語られています

それもそのはず、マンハッタン計画の責任者といっても、54年の「聴聞会」での姿はまさに時勢に翻弄される中間管理職。

爆弾を作った後は、政府や軍から蚊帳の外に置かれ、使用状況を教えられることすらありませんでした。

原爆が使われた瞬間も、個別に伝えられはしなかった人物を描くのに、間接話法を用いるのは自然なことに感じました。(直接話法を用いるのは、それこそ野暮で蛇足ではないか、とも)

また本作に限らず、私はいくらモデルやモチーフになった当事者であっても、他者作品の表現方法や結末に「口を出す権利がある」という考えは傲慢だと思っています。(看過しがたい事実誤認や、誹謗中傷は別です)

「広島や長崎の映像が少ない」=「不誠実」とも思いません。

まして、いくら実在の人物・実際の出来事を扱っていても、『伝記映画』=フィクション。

これは「クリストファー・ノーラン監督の、オッペンハイマーの物語」です。

むしろ「原爆の話題を扱うときは、必ずこれらの映像を挟まなくてはならない」「こういう取り扱いをしなければ不誠実」という見方は、そのテーマに触れたいと考える人達を敬遠させ、間口を狭めることを危惧しています。

たった一本の作品で、全てを表現できるわけもないのですから。

この映画を見て、オッペンハイマーの生涯に興味を持った人は、その後のことを調べるでしょう。同様に、広島・長崎で何が起こったのかも、知りたい人は自分で深掘りすることでしょう。

さて、原作本の原題に「American Prometheus」とあるように、オッペンハイマーは神の火を盗み、生きながら責め苦を与えられ続けたプロメテウスとして描かれています。

それは「聴聞会」だけでなく原爆についても通じるメッセージです。

「戦争を終わらせるために、日本に原爆を落とすのは仕方のないことだった」論すら納得できず。原爆投下後、口では威勢のいい演説をしながら気分は高揚するどころか、周囲の人間にケロイドや原爆症を投影し、広島・長崎の惨状を幻視しています

しかしノーラン監督は、悔悟の念を抱き苦しんでいるから許してやってほしい、などと語ってはいません。

原爆開発ではなく、プライベートで起こった事件で憔悴するオッペンハイマーを妻が詰るシーン。

「罪を犯しておいて、同情されると思っているの!?」

というセリフが、それを象徴しています。

『オッペンハイマー』鑑賞後、当初は骨太さに打たれ、後に残ったのは大きな静寂でした。

帯広の緑ヶ丘公園に写真を撮りにいったのは、プリンストンの池のほとりで、アインシュタインとオッペンハイマーが会話を交わすシーンをイメージしたからです。

作中でも、鍵となる場面では雨が降っていました。そのシーンでのキリアン・マーフィーの表情はとても印象的でした。(本作品の演技は、これで取れなかったらいつ取るの!?と納得のアカデミー賞でした)

それもあり、雨の日に訪れました。

他に生命を感じられない、静かな世界。
それもモノクロに近い色彩で。
映画を見て残った心象に近い風景です。

こんな重量級の映画だったと少しでも伝わると嬉しいです。

オッペンハイマーは神の火を盗み、生きながら業火に焼かれた。
それなのに、お前たちは制御不能なパンドラの箱をなおも開け続けるのか?
そんな皮肉と、静かな怒りを孕んだ作品だったように思います。

『オッペンハイマー』映画として満足度の高い、出色の大作でした。

PROFILE

三崎 裕美子 | 腐女子 / 総統
1980年生まれ。北海道帯広市出身|釧路→新橋のサラリーマン(港区女子)→などを経て基本帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女。しかしてその実体は、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民。十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格。同年生まれのハリー・ポッター氏が通うホグワーツ・スリザリン寮に組み分けされたかったゲラート・グリンデルバルド信奉者。



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三崎 裕美子

腐女子 / 総統

1980年生まれ。北海道帯広市出身|釧路→新橋のサラリーマン(港区女子)→などを経て基本帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女。しかしてその実体は、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民。十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格。同年生まれのハリー・ポッター氏が通うホグワーツ・スリザリン寮に組み分けされたかったゲラート・グリンデルバルド信奉者。

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