――世代を超えて響く言葉、本の力を信じて
障がい児通所施設の代表理事、ブックカフェ&バー「Sen」のマスター、絵本作家といくつもの顔を持ち幅広い分野で活躍されている小川洋輝さん。以前のインタビューでは「十勝全体の福祉を底上げしたい」と語ってくれました。それを実現する要素のひとつが、読書だといいます。スマヒロでの書評コラム連載100回の節目を祝い、「人生を変える名著10選」や、小川さんの読書観と福祉観を縦横無尽に語っていただきました。
書評100回の歩みと、小川洋輝さんの読書人生

「まさかこんなに早く100回に到達するとは思いませんでした」
インタビューで開口一番、そう話してくれた小川さん。ブックカフェを開業してからは閉店後の23時半以降からしか本を開けず、一時は読書量が減ったといいます。最近はオーディオブックも駆使しつつ、昨年は年間109冊を読破。
「“聞く本”なら車の移動中でも調理中でもページが進む。再読や内容確認にも最適なんです」
小川さんはにこやかにそう話します。小川さんが書評を始めたきっかけは、毎月第3金曜日に開催している読書会でした。
「読書会では、参加者が3分間で本の魅力を伝えるという時間があります。『タイトルだけでは伝わらない本の深みを、もっと多くの人に届けたい』と感じました」
ただ、書評にも1,500文字という制約があります。限られた文字数で読者に興味を持ってもらうために、「本によって自分の意識や行動がどう変わったか」を盛り込むのが小川さんの書評スタイルになっていったそう。
小川さんが薦める名著10選

| 推薦区分 | 書名/著者・出版社 | ここが刺さる! |
|---|
| 10代に読んでほしい | 『スタートライン─ 一歩踏み出せば奇跡は起こる』
喜多川泰/Discover | 初めて書評に選び、著者と出会うまで
行動が加速した原点の一冊。 |
| 10代に読んでほしい | 『3秒でハッピーになる 名言セラピー』
ひすいこたろう/ディスカヴァー・トゥエンティワン | 文字が少なく読書初心者でも楽しめる“入口本”。
発想転換で世界が明るくなる。 |
| 20代の迷いに寄り添う | 『嫌われる勇気』
岸見一郎・古賀史健/ダイヤモンド社 | 青年と哲人の対話形式がモヤモヤを代弁。
自分軸を築ける。 |
| 30〜40代の働く世代に | 『役割─なぜ、人は働くのか』
佐藤芳直/致知出版社 | “誰かのため”を軸に、働く意味を問い直す。
福祉現場とも共鳴。 |
| 50代以上に再読を | 『たゆたえども沈まず』
原田マハ/幻冬舎文庫 | ゴッホの物語が「評価は今でなくていい」
と教えてくれる。 |
| すべての世代に | 『夜明けのすべて』
瀬尾まいこ/水鈴社 | PMSとパニック障害を描き、
互いを思いやる視点をくれる“人を救う小説”。 |
小川さんの“推し”本
・『ぼくは刑事です』小野寺史宜 ─職業の裏側にある“人間”を教えてくれる恋愛小説。
・『ありか』瀬尾まいこ ─自分の“居場所”を探す旅を描き、十勝で福祉を営む自分にも響いた。
・『サイレントK沈黙のマウンド』 石井裕也 ─『きこえなくたって』の原作。野球に生きる横浜商工・難聴の左腕エースのノンフィクション。
・絵本『きこえなくたって』おがわひろき 作 ──耳が聞こえない少年が夢を叶える実話。
絵本『きこえなくたって』誕生物語―“短所”が“長所”になる瞬間を子どもたちへ

石井裕也氏との出会いが生んだ絵本
石井裕也氏との交流がはじまったのは2013年。15年には帯広聾学校を慰問。18年の引退会見では、同校の児童から花束が贈られ、23年の卒業式でも石井氏がサプライズ動画でエールを送りました。その全ての窓口役が小川さんだったそう。
決定的な瞬間は、2018年の引退試合で石井氏のご子息を見つめたとき。「この子が大きくなった時、父親の偉業を確かに残したい」と強く感じ、絵本化の構想が芽生えます。
“短所”が“長所”になる―絵本に込めた願い

「すぐに石井氏の著書『サイレントK 沈黙のマウンド』を熟読し、原稿を執筆。23年4月28日にご本人の監修許可をいただき、出版社との契約を経て、ようやく世に出すことができました」
絵本に込めたのは「耳が聞こえない」という“短所”と思われがちな要素も、環境次第で“長所”に変わり得るというメッセージ。石井裕也という実在のヒーローを通じて、「夢をあきらめない子どもが一人でも増えてくれたら」―それが小川さんの願いでした。
「書けない書評がある」ー言葉にできないぬくもりを持つ森沢作品

数々の本を読んできた小川さんに、「絶対に書けない書評」があるといいます。それは作家・森沢明夫さんの本。
20歳で福祉の現場に入り、最初は図書館で専門書ばかりを読んでいたという小川さん。福祉系の本をほぼ制覇した後に手に取ったのが、森沢さんの小説でした。強く心を打たれ、講演会にも足を運んだといいます。そこで「本は人を救う」という森沢さんの言葉に感銘を受け、物語を通じて人と人が心を通わせる大切さや可能性を知ったといいます。
「『水曜日の手紙』をはじめ、森沢さんの作品は全作読みました。読み終えるたびに心があたたまり、背中を押される。そんな勇気を与えてくれる作品なのに、書評が書けないんです」
その理由は森沢さんへの畏敬の念。書評を書くことが決まった時、真っ先に森沢作品の紹介が頭をよぎったものの、どうしても筆を進めることができなかったといいます。
「言葉にすればするほど、森沢さんの物語からあふれる“ぬくもり”がこぼれ落ちてしまう気がするんです。だから、今でも書けません」
小川さんにとって森沢作品は、福祉で悩む夜に読み返すお守りであり、次世代へ手渡したい希望そのもの。だからこそ、読者にはそれぞれの巡り合うべきタイミングで森沢作品に出会ってほしい。小川さんの森沢作品への深い愛情が感じられるエピソードです。
読書で培われた「対話する力」

放課後デイサービスで障がいをもつ子どもたちと向き合い、ブックカフェで保護者や本好きと語り合う小川さん。対話でも読書で培われた感覚や知識が生きるといいます。
「物語を読む中で登場人物の心に入り込む経験を重ねると、現実でも相手の背景に思いを巡らせる癖がつくのです」
カフェで病気に関する悩みごとを聞く時は、『夜明けのすべて』(瀬尾まいこ著)に登場するPMSとパニック障害を抱えた2人の主人公を思い出しながら、病状をストーリー仕立てで説明することもあるそう。
「そうすると、病名にフォーカスして話すより相手が安心して聞いてくれるように感じます」
と小川さん。まさに、福祉と読書が交差する瞬間です。
これからの100冊へ、今日も新たな1ページを開く

「読書は旅行や映画と同じ“新しい世界への扉”。ページをめくるたびに、知らなかった自分や他者と出会える。そのワクワクを次の世代に手渡したいですね」
十勝全体の福祉レベルを底上げし、“本があるまち”として知られる未来を描きながら、小川さんは今日も閉店後のカウンターで新しい物語を開きます。
あなたも新たな本のページを開き、人生を変える最初の一歩を踏み出してみませんか。
Profile#
小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen(せん)」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー!』(みらいパブリッシング)か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当。
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