作品名:少年と犬
著者:馳星周
出版社:文春文庫
守り神なのか死神なのか?
「酒は多聞〜🎵」
こんなCMがあったことをいまだに覚えていますが、この作品では日本酒ではなく、主人公ならぬ主犬公として登場するんです。
はい。犬に主役を持っていかれました。
短編連作のこの作品は全7章あり、どの章も篠原涼子の名曲ばりに「愛しさと切なさ心強さ」を感じさせてくれます。
舞台は東北大震災直後の東北。
復興もままならない状態で駐車場で誰かを待つ多聞。
そんな多聞が出会う人間には共通するの2つの要素。
読み進めていくうちにこの共通点に気がつき、トシちゃんこと田原俊彦のごとく「ハッとしてGood」
あなたはどの章で気がつくでしょうか?
出会いと別れを見つめ直すきっかけになる珠玉のストーリー
作中で犬の多聞は、出会いと別れを繰り返すのですが、これ以上はネタバレになるので控えますね。
でもこの本で出会いと別れはセットであり、別れはまた新しい出会いへのスタートであると再認識させられた気がします。
私は生まれた頃から犬と猫に囲まれて生活をしていました。
ベビーベッドで猫が添い寝してくれたり、少年野球のトレーニングのため犬と一緒にランニングした記憶があります。
私の成長を見届けてくれた家族です。
当然その家族と別れのタイミングもあり切なかったですが、今もしっかりと心の中で生き続けています。
ちび、クロ、ポッキー、私はこんなに大きくなりましたよ。
これからもいろいろな出会いと別れを繰り返して生活していくと思いますが、ひとつひとつを噛み締めていきたいですね。
幸か不幸かに答えはない、決めるのは自分自身だ!
この作品の中では様々な登場人物が多聞と関わっていきます。その人たちの人生それぞれ一筋縄ではいかず、峰不二子の豊満なバストのように山あり谷ありなんです。
その人生は幸せだったのか、そうでなかったのか。私たちは決めることはできませんが、自分なりの解釈をすることはできますよね。もしかするとこの作品はその解釈がバラバラになるんじゃないかと私は思っています。もし、友人や家族でこの作品を読んだ仲間がいたら、「どう思った?」と共有しても面白いかもしれません。
きっと感じたことはバラバラで、でもどれもが正しくて、楽しい時間になると思います。
さて、それを自分たちの人生に置き換えてみましょう。
これを読んでいるあなただって、今までの人生で辛いことも楽しいこともありましたよね?それを〝今〟の時点で総括するとしたらどうでしょう?
幸せな人生でしたか?不幸な人生でしたか?
そしてそれは、これからの残りの人生でまたひっくり返る可能性はあるんです。
そう考えると、残りの人生がいかに大切かおわかりいただけることと思います。
そんな人生観を見つめ直すこの作品は、次の章が気になり、山本リンダのように「どうにもとまらない」、寝不足必須の1冊です。
Profile
小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen(せん)」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー!』(みらいパブリッシング)か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当