作品名:雲を紡ぐ
著者:伊吹 有喜
出版社:文春文庫
不登校の女の子と、その居場所の〝家族〟の物語
不登校になった高校生の美緒は、自分の思いを上手く言葉にできないことがきっかけで親子関係がうまくいかなくなってしまいます。
うんうん。どちらの気持ちも想像でます。
そんな流れから、東京の家をでて盛岡の祖父である絋治郎のもとへ行くことになるのですが、そこは彼が営む羊毛の工房。
その工房は職人にとって相撲で言うところの土俵のような聖域。
そこで作業を学ぶことになった美緒は〝自分の色〟を探しはじめます。
好きな色、自分を表す色、託す願いは何か?
考えれば考えるほど、思考の糸は絡まります。
そうです。ブルース・リーだって言ってますよ。
「考えるな、感じろ」って。
その〝自分の色〟を見つけるまでのストーリーと、美緒を取り巻くいくつかの親子の〝心の糸〟を紡ぐ物語。
冬に飲むココアのようにほっこり温かいお話です。
なにかに〝絡まり〟があるならこの本の出番
この作品の登場人物にも、もちろんこれを読んでいる私たちにも、「人生いろいろ」あることは島倉千代子さんが音楽で教えてくれました。
だけど、そんないろいろだって、ひとつひとつ丁寧に解いていくことができれば、辛さや苦しさは半減していくのだと私は思います。
でも、いろいろある時こそ気持ちの余裕はなくなってしまっていますよね。
「せがなくていい(急がなくていい)」
絋治郎のこの言葉は、文字であるのに関わらず、直接言われたかのように心に届きます。
無骨で口下手だけど温かい。
いいや、だからこそ温かい気がします。
不器用の第一人者、高倉健さんのように。
私自身、やりたいことがいっぱいで頭の中が某ヴィジュアル系バンドよろしく絡まりマクリマクリスティーだったのですが、この本を読むと生き急いでいるスピードが緩まり、解れていくような気がするのは私だけでしょうか?
ぜひ、読んでみてほしいです。
逆視を学び、生きにくさの解消へ
突然ですが、逆視(ぎゃくし)って聞いたことありますか?
私は、〝物事を違う視点で捉え、ポジティブに解釈する状態〟と解釈しています。
心理学ではリフレーミングということもあります。
ここでまた、絋治郎の名言を引用させていただきますが、これがまたグッときます。
「へこみとは、逆から見れば突出した場所だ」
私は、普段は発達が凸凹な子どもたちをサポートする仕事をしているのですが、〝うるさい〟は〝元気いっぱい〟、〝おちつきがない〟は〝エネルギーに満ちている〟などとこのように解釈する習慣を身につけたいと思いました。
意識せず自然にできるようになりたいですね。
もちろん他にも名言はあり、「耐えて壊れるぐらいなら、逃げて健やかであるほうがいい」
こんなに温かく力強い言葉が溢れたこの本は、あなたを救い、あなたが誰かを救うきっかけになる。
そんな1冊になるかもしれません。
Profile
小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen(せん)」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー!』(みらいパブリッシング)か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当