【書評】本の虫 小川の本棚 「雨の降る日は学校に行かない」presented by Book cafe & bar Sen 059

作品名：雨の降る日は学校に行かない
著者：相沢沙呼
出版社：集英社

子どもから大人まで楽しめるヤングアダルトな１冊

まずはじめに〝ヤングアダルト〟について説明します。

「アダルト」と聞くと、ドラゴンボールでお馴染みの亀仙人のように「ムフフ」と鼻の穴が大きく膨らむかもしれませんが、本来は「子どもと大人の間の世代」を指しますのでご安心を。

そのヤングアダルトのジャンルに属している小説と出合ったのですが、ボクがミドルアダルトなことを考えると、少し不思議に感じるでしょう。

この本との出合いのきっかけは紹介によるもの。

私の記憶が確かならば（料理の鉄人風に言うならば）、「小川さんに読んでほしい」とこの本をいただきました。いわゆる不登校支援の活動をしているボクとしては、タイトルと帯を見た瞬間に興味が湧いたことは今でもはっきりと覚えている。

その帯に書いてある「普通じゃなくて、ごめんなさい。生きにくい子で、ごめんなさい。」

この言葉に、すべてが詰まっているのです。

各章の主人公が「懸命に生きている姿」が印象的

タイトルにもある通り、６つの章にわかれている短編集です。

それぞれの章は、中学生の主人公となっており、彼女らはそれぞれに異なる生きにくさやを葛藤を抱えている。サエとナツは保健室登校をしていて、いわゆるそこが楽園だった。そんな中、サエが「クラスに戻る」と言い出すのです。果たしてそのときのナツの反応は？

学校生活に閉塞感を感じることが少なくない現代において、この本は大きく役立つのだと思う。

学生視点でこの本を読むと、主人公と感情や経験を分かち合え、自分と重ね合わせて読むことができるでしょう。一方で、大人視点でこの本を読むと、学校教育の在り方や、自分自身の振る舞いについて深く考えさせられるでしょう。

特に、物語の終盤では、小さな希望の光が見え隠れする瞬間が描かれており、そこに希望の兆しを感じられます。

この希望の兆しが、読んでいる読者自身にも前向きな気持ちを与えてくれるでしょう。

答えはひとつではないことを教えてくれる

「先生。わたしたち、どうして学校に行かないといけないの？」

これに対する答えは誰しも考えたことがあると思う。そして「これだ！」という答えを導き出せた人も少ないと思し、もしかしたら時代とともに変わるのかもしれない。

ボクはこの本を読み「きっと答えはそれぞれにある」と思わされ、気持ちが楽になった。それと同時に急いで答えを出す必要もないのだとも感じた。

はい。かなり救われました。

答えのない悩みがあるときは、読み返すといいかもしれません。

あなたの心の支えになるかもしれないこの本は、気持ちに余白をつくってくれる１冊です。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。