【書評】本の虫 小川の本棚 「わたしの美しい庭」presented by Book cafe & bar Sen 062

作品名：わたしの美しい庭
著者：凪良ゆう
出版社：ポプラ文庫

「凪良ゆう」さんの作品の中で「１番好き」と複数人が推した一冊

2023年に本屋大賞を受賞した『汝、星のごとく』や、 2022年に映画化された「流浪の月」の著者である凪良ゆうさんは、近年、読書界隈の人たちで注目を集めている作家のひとり。多くの本好きの人たちが、この名前を目にしたことがあるだろう。もちろんボクもいくつかの作品を手に取り、その魅力に心を奪われたファンのひとりだ。

ボクの個人的な見解になってしまうが、凪良ゆうさんの作品の特徴として、人々が抱える「生きにくさ」を丁寧に描くこと。その描写がとてもリアルで、登場人物が身近な存在のように感じる作品が多い。

また誤解を恐れずに言うと、人間の中の心に潜む「闇」の部分を扱うことが少なくありません。だからダークな印象を持っている人もいるかもしれません。

しかし、この「わたしの美しい庭」は、その「闇」を感じない。もちろん、マイノリティな人たちが登場するのだが、その姿に「光」を感じるのはボクだけではないはずです。

また、文庫版のカバーは季節によって変わるのでお好みのものを選んでみるのもいいでしょう。

 

ちょっと変わった「家族」とマンションの屋上にある「縁切り神社」から目が離せない

小学生の百音と統理は、二人で暮らしている。朝になると同じマンションに住む路有が加わり、三人で朝ご飯を一緒に楽しむのが日課。しかし、実は百音と統理には血の繋がりがなく、そのため周囲からは「ちょっと変わっている」と思われることもありますが、彼ら自身は毎日楽しく過ごしてるのです。

 

この三人が住んでいるマンションの屋上には、小さな神社があり、管理しているのは統理。地元の人々からは『屋上神社』や『縁切りさん』と呼ばれて親しまれ、特に断ち物の神様が祀られていることで有名。ここでは、悪い習慣や不幸な人間関係、心の重荷となるようなすべての悪い縁を断ち切ってくれるとされており、そのため、さまざまな悩みを抱えた人々がこの神社を訪れ、心の支えを求めています。

 

この神社に足を運ぶ人たちの物語が展開される一方で、百音、統理、そして路有の三人の生活や成長にも注目です。彼らが直面する困難や喜び、そして神社を巡る人々のストーリーがどのように交錯していくのか、その先の展開が気になるところです。

 

あなた自身の目で確かめてみてください。

 

多様な価値観を知り、人生をより豊かにするための１冊

この本を読み進めているうちに、ふと気づいたことがある。それは、自分の中にある「偏見」や「世間体」という不要な価値観が、少しずつ自分の心から遠ざかっていくような感覚を覚えたこと。

物語の中で描かれている世界は、もちろんフィクションの世界。しかし、よく考えてみると、ボクたちが生きている現実の世界にも、マイノリティとされる人々や、日々の生活の中で生きにくさを抱えている人たちが確実に存在するのです。もしかすると、自分自身がその当事者である可能性もありますし、身近な誰かが同じような悩みを抱えているかもしれません。

このような生きづらさの根源には、「偏見」や「世間体」といった無意識に刷り込まれた価値観があるのだとしたら、私はこの本を読むことを強くオススメしたい。この本がボクたちに与えてくれるのは、まさにそうした呪縛からの解放であり、心の中にある不要な縁を断ち切ってくれる力です。

まるで、「縁切り神社」から授けられた特別な授与品のようなこの本は、私たちの心の中にある余計な重荷を軽くしてくれる、そんな不思議な力を持っているように感じます。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。