【書評】本の虫 小川の本棚 「のっけから失礼します」presented by Book cafe & bar Sen 063

作品名：のっけから失礼します
著者：三浦しをん
出版社：集英社

稀に見る不本意な出合いも悪くはなかった

この本との出合いは、人からの紹介、いいや控えめに言っても押し付けがきっかけでした。笑
はい。いい意味でですよ。いい意味で。（二回言って強調してみる。笑）

知人が、「この章だけでいいから読んだら感想を教えて！」っと吐き捨てるように呟き、足をぐるぐるさせて颯爽と行ってしまったのです。で、しっかりとそのページには、栞が挟んであった。そうなると相手の期待を上回らないと気が済まないのがおがわの性分。遠い昔の先祖から代々伝わる気質なんですよ。
知らんけど。

だから１冊まるごと読んでバビッと感想を言ってやろうじゃねえの。耳の穴かっぽじって待ってろよ！とは言わずに、いそいそと読み始めたのです。

 

で、
で！ですよ。

 

失礼ながら今まで三浦しをんさんの本を読んだことはなかったのですが、すぐに好きになりましたよ。第１章のはじめのタクシードライバーさんとの面白トークのところで。

なんせエッセイってのがよかった。

著者の人となりがわかるので、「こんな面白い人の作品は絶対に気になる！」
そうやって、ぼくの心のやわらかい場所をしめつけたのです。
そして気がついたら彼女の小説を買いに出かけている始末。
こりゃ一本取られましたね。

想定外の素敵な出合いが読書の幅を広げるきっかけになったのです。

何気ない日常だって見方が変わればこんなに面白いんだ

この本を読んでいると、どのページも面白い。頁をめくってもめくっても面白エピソードがウォルマートの商品棚のように陳列されている。もちのろん、ウォルマートは行ったことも見たこともないが。

では、それだけ彼女のもとに楽しい出来事や人が集まってきているのか？たぶん答えはNO.

誰にでも起こっている出来事やあなたの身近にいろような人たちと出会っているんだけれども、彼女の見方や解釈がどのエピソードも楽しくしているのだと思う。

案外、これって人生において大事なスキルで、例えば作中にでてくるDD（ドSなドクターの略）の章は、大半の人は苦痛なエピソードになるところ、読者がクスッと笑えるように表現できるのはたまらない。

うん。喉から手が出るほどに欲しい。

ちなみに一番お気に入りは「チャーワールドのパンダ」の件です。

エッセイはこんなふうに読んでみるとおもしろい

ちなみに、チャーワールドにはホワイトタイガーもいるのだが、頭も白けりゃ、尾も白い。

おもしろい。
はい。面白い。

くだらないギャグはさておき、エッセイの読み方にはコツがあることを最近知った。

今までは、「へー、著者はこんな体験したんだー」なんて他人事のように読んでいたがおがわなのだが、とある老人のアドバイスにて読み方を変えてみた。

それは、〝自分だったら〟と想像して読むこと。

例えば、タクシードライバーの件だと、自分が出会ったタクシードライバーはあんな人だったなとか。父親が育てているキウイの件だと、自分の両親を思い読んでみる。

そうすることでひとつひとつのエピソードが自分ごとに変化し、楽しくなるのでおすすめです。

 

三浦しをんワールド全開のこのエッセイ。
抱腹絶倒まちがいなしの１冊です。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。