【書評】本の虫 小川の本棚 「ほたるいしマジカルランド」presented by Book cafe & bar Sen 069

作品名：ほたるいしマジカルランド
著者：寺地はるな
出版社：ポプラ文庫

本屋大賞ノミネート作家が綴る心が温まる物語

ボクが運営するBook cafe&bar Senの常連さんから「小川さんにぴったり」とオススメいただいたのが、この小説。最初に手に取ったとき、温かみのある表紙と好奇心をかき立てるタイトルに自然と目を引かれた。

これから寒さが厳しくなっていく今の季節にぴったりなサーモンピンクの色使いもとても魅力的で、「いつ読むの？」と聞かれたなら、林修先生風に「今でしょ！」と答えたくなる配色。

まず第一印象はバッチリ。

目次を開くと7つの章に分かれており、各章ごとに異なる主人公が登場する構成も、読みやすさを感じさせる。

はい。第二印象もバッチリ。

そして実際に読み始めると、もう止まらない。おがわの中の「YAZAWA」が心の中で「ha〜ha」とハミングし、ページをめくる手が止まらない。結局は一気読み。

舞台は、大阪北部にある老舗遊園地。懐かしさと温かさが交錯するその場所で繰り広げられるストーリーは、読者の心にじんわりと染み込み、日々頑張るあなたの疲れた心を軽くし、じんわりと温めてくれること間違いなしの1冊です。

 

大阪にある老舗遊園地で働く従業員視点の短編連作のストーリー

全体は7つの章に分かれており、それぞれの章で1人の従業員にスポットライトを当てて物語が進んでいく。登場するのは、どこか不器用で悩みを抱えた人ばかり。

とはいえ、みな自分の役割にプライドを持ち、お客様の笑顔のために奮闘する姿が温かく、じんわりと胸を打つ。アトラクションを動かすスタッフや、迷子になったお客様を案内するインフォメーション担当、影で園内をきれいに保つ清掃スタッフ、そして植物のお世話をする緑の管理担当者。そしてこのほたるいしマジカルランドには、都市伝説の噂まで流る。

極め付けは、あの有名ホテルの社長を思わせるほど存在感が抜群な名物社長の存在。

この情報だけで心が弾み、「この本を読みたい！」と思わずにはいられない方も多いのではないだろうか。実在する枚方パークをモデルにしているこの小説は、ただのエンタメにとどまらず、改めて「働くって何だろう？」と考えさせられるきっかけになるかもしれません。

仕事のやりがいやチームワーク、そして日々のささやかな喜びを見つめ直すきっかけになるかもしれません。

日常生活に新たな視点を

前述の通り、この物語に登場するキャラクターたちは、「ほたるいしマジカルランド」の頼れる従業員たち。彼らは夢の国で日々奮闘し、様々な出来事に巻き込まれながらも、たくましく働いている。

ところで、ふと我々の身の回りを見渡すと、ここにもあそこにも、さまざまな職場で働く人々がいる。そして、その中にはボクら自身も含まれているのだ。そう考えると、この物語は単なるフィクションではなく、ちょっぴり自分たちの人生とも重なって見えてこないだろうか？

毎日の紆余曲折、時には「なんでこんなことが…」と思う瞬間も、実はこの人生という壮大な物語をより味わい深くするための絶妙なスパイスなのかもしれません。

主人公は誰だって？もちろん、あなた自身です。

さあ、今日からの人生を、一本の小説の中のワンシーンだと思って、楽しんでみませんか？

 

あなたの人生に新たな視点をもたらせてくれるこの１冊、これからの人生に彩りを加えてくれるでしょう。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。