【書評】本の虫 小川の本棚 「忘れ物は絵本の中に」presented by Book cafe & bar Sen 073

作品名：忘れ物は絵本の中に
著者：有間カオル
出版社：実業之日本社

タイトルに「絵本」とあればすぐに読みます。

大前提として、この本は「小説」です。

そう、「ノンフィクション」でも「自己啓発本」でもなく、純然たる小説。そのことを先にお伝えしておきます。でないと、タイトルに「絵本」の文字があるので紛らわしいですからね。

さて、ボクは普段、決まった作家さんの本を愛読するタイプ。いわゆる「お気に入りの安全地帯」でのんびり過ごすのが好きのだ。しかし、たまには新しい風を入れなきゃと思いつつ、結局なかなか「はじめまして」の作家さんの作品を手に取るきっかけがありません。

そんなボクが「これだ！」と思う本に出会う瞬間がある。それが何を隠そう、タイトルと表紙。

この二つにピンとくると、一気に読みたいモードに突入。そしてさらに、本の裏に書かれたあらすじで「絵本Bar」の文字を発見。これを見た瞬間、「え、待って、完全におがわのこと知ってるでしょ？」と心の中で叫んだ。

だって、「Book cafe&Sen」を運営していて、絵本作家としても活動しているおがわに「絵本」と「Bar」なんて、まさにドンピシャ。

はい。これは運命です。

読み始めると、その期待を裏切らない内容にニヤリ。一度は読んだことがある絵本が作中に登場するので、そこにも注目の１冊です。

 

あなたの思い出の絵本はなんですか？

この物語は、4つの短編で構成されている。

それぞれの話に、誰もが一度は手にしたことがある実在の絵本が登場するのが特徴だ。タイトルを見ただけで心がざわつく方も多いではないでしょうか。

「ノンタンと俺」「奇妙な黒い世界」「ハラペコなアオムシと私」「百万回やり直しても」

これだけで、本好きや絵本に思い出のある人の心を掴むはず。

舞台は、繁華街の片隅にひっそりと佇む「絵本Bar クレヨン」。この店には、不思議な魅力が漂っており、気がついたら店内に足を運んでいる。主人公の青柳由良は、亡き祖父が遺した“特別な本”を探し求め、この店に通い始める。

しかし、この店に足を運ぶのは、ただの絵本好きな大人たちではなく、過去に「大切なもの」を置き忘れたまま生きてきた人々。例えば、飼い猫との思い出に浸り続ける孤独な男。実母との確執に苦しむキャリアウーマン。息子への過剰な愛が拗れてしまった母親。あるいは、介護の果てに疲れ果てた夫…。

誰もが、何かを抱えながら、その小さな店で知られた絵本を手に取ります。そして、その絵本が彼らを心の迷宮へと誘い、時に深く傷つき、時に温かく癒されていくのです。

物語のクライマックスでは、涙腺崩壊の危険性大。ティッシュ箱片手に読み進めることをお勧めします。この4編はただの短編集ではありません。

絵本が持つ普遍的な力と、登場人物たちの人生が織りなす、心に響く珠玉の物語。大人のための、絵本を巡る旅に出かけてみませんか？

読書にもっと深い愛着が湧くきっかけになる１冊

あなたは、本と思い出が繋がっていると思いますか？

ボクは、正直に言うと、今まであまり意識したことがなかったのだ。でも、この本を読んで記憶を遡ってみたら、どうにも止まらない。山本リンダもビックリ仰天、まるで確変大フィーバー状態、いや、脳内の思い出ジャックポットが炸裂。

もちろん、「楽しかった」「勉強になった」「感動した」なんて感想は、あなたもこれまでの読書で何度も味わってきたと思う。

でも、もっと深掘りしてみると、こんな場面も浮かんでくるはず。「あの本を読んでた頃、人間関係がゴタゴタで必死だったな」「あの一冊のおかげで、あの人と出会えたんだよなぁ」なんて、思わずニヤリとしてしまう記憶たち。

本って、気づけば人生のいろんな場面に足跡を残しているものなんですね。

そんな新たな視点を教えてくれたのが、この「忘れ物は絵本の中に」という一冊。まさにタイトル通り、忘れていた記憶を絵本のように鮮やかに蘇らせてくれる、ちょっと魔法みたいな本でした。

 

これからも本を読み続けていくあなたに、読書がもっと愛おしく感じられるようになるきっかけをくれるかもしれません。この本、ぜひ手に取ってみてほしい。読書がさらに彩り豊かになるでしょう。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。