【書評】本の虫 小川の本棚 「海風デリバリー」presented by Book cafe & bar Sen 074

作品名：海風デリバリー
著者：蒼月海里
出版社：実業之日本社

「お仕事ストーリー大好きなあなたにピッタリ！」とおススメしたい一冊。

この小説は「海」に関するお仕事ストーリーで、登場人物の名前もすべて「海」に由来すると聞き、好奇心をそそられ読んでみることにした。彦摩呂よろしく「これはもう、海上のお仕事天国や！」と満を持しつつ。

高校を卒業したばかりの「海原ソラ」は、憧れの電動ジェットボード「ストリームライド」を駆り、配達業務に踏み出す。

そこは、古きよき「舟屋」を拠点とした小さな会社「かもめ配達」。先輩や同僚と切磨摩擦するうちに、海原ソラは「人間」も「技術」もどんどん磨かれ、成長をしていく。

やがて、自分たちが運んでいるのは単に「荷物」ではなく、「想い」や「心」そのものであることに気付くのです。

こんな《青春》×《お仕事》ストーリーは、読者それぞれが忘れかけていた大切な何かに気付かせてくれること間違いなし。自分の生活や仕事を見直すヒントを与えてくれるきっかけになる１冊です。

 

 

４つストーリーから成り、それぞれの良さがある

この本は、「かもめ配達へようこそ」の章からスタートし、この物語は主人公の海原ソラが、知識不足を運動能力とやる気でどうにかカバーする様子が描かれており、やる気を与えてくれる。第2章「漆黒のライダー」では、ふたりで一緒で荷物を運ぶチームワークが描かれており、自分の限界を思い知り、相手との力の差を軸に、一歩ずつ前に進む様子が気付きを与えてくれる。

第3章「ボトルメッセージの恋文」は、「切れてもつながる」メッセージが情感をくすぐる。わからないことも、とりあえず考えつづけることが大切だと教えてくれた。小さなヒントをつなげ、結果を出すその様子は、そのまま人生の教科書と言っても過言ではない。

最終章「海鳥たちの祭り」では、乱入者との決戦が描かれる。「思いが届かないのは誰のせいだ？」と問い掛けるような話で、反発を続けても想いは拗れるばかりだと伝わった。

そんな４つの章で構成されており、どれをとっても学びに繋がる要素が詰まっているのが特徴です。

順風満帆にはいかないのが面白い。

海原ソラ、そして彼が勤める「かもめ配達」。創業当初の苦難を乗り越え、いまや安定した日々を送っているかのように見える。だが、それは表面だけの話。時折出現する「ハンマーヘッド」との戦いが、彼らの日常を騒がしくかき乱している。だが、この戦いこそが物語のエッセンス。緊張感と高揚感が入り混じるその展開に、読者は手に汗握りながら次のページをめくる手が止まらない。

考えてみれば、ボクたちの人生も似たようなものだと思う。ときに高い壁が立ちはだかり、乗り越えるべき試練が目の前に現れる。その瞬間は苦しく、怖く、逃げ出したくなることもあるだろう。でも、その壁を乗り越えたときにこそ、得られる達成感や充実感はひとしおだ。もちろん、あまりに高すぎる壁だと辛すぎるが、人生は不思議と必要以上の試練を与えないものだ。

少なくとも、そう信じたい。

物語の終盤、大きな試練を乗り越えたソラたちの姿には、きっと胸が熱くなる。その瞬間、心はまるで湯たんぽのようにじんわりと温かくなり、ページを閉じたあとも長く心に余韻が残るはず。

 

彼らの物語が私たち自身の人生と重なり合うように感じられるのは、その苦難と成長のプロセスが普遍的なものだからかもしれない。

そんな身近に感じられる１冊は、読みやすく、読書ビギナーにもおすすめの１冊です。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。