【書評】本の虫 小川の本棚 「問題。以下の文章を読んで、家族に幸せの形を答えなさい」presented by Book cafe & bar Sen 090

作品名：問題。以下の文章を読んで、家族に幸せの形を答えなさい
著者：早見和真
出版社：朝日新聞出版

読書アプリのが導いた１冊の本との出合い

ボクは読んだ本を管理するために、とある読書アプリを活用している。

今の時代、スマホのカメラでバーコードを読み取るだけで、本の情報がすぐに保存される便利な機能がある。さらに、これまで読んだ本の傾向から「あなたへのおすすめ」として新たな本を紹介してくれる。

そこで出合ったのが、この小説だ。

早見和真さんの作品はいくつか読んでいたが、この本の出版は知らなかった。

そう、アプリは新刊情報まで教えてくれる。まったく、ありがたい時代である。

読書をしていると、新しい本との出会いはさまざまだ。書店で偶然手に取ることもあれば、友人に勧められることもある。SNSで話題になった作品を読んでみることもあるが、アプリ経由の出会いもまた面白い。なぜなら、自分の読書履歴をもとに選ばれた本は、意外な発見をもたらしてくれるからだ。

さて、この本のタイトルを見て、あなたはどう感じるだろうか？

「問題。以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい」

まるで試験の問題のような、挑戦的なタイトル。

「家族の幸せの形」とは、一体何なのか？その「答え」は本当にあるのか？

そんな問いかけに、ボクは思わずページをめくりたくなった。

——この一文に惹かれたのは、ボクだけではないはずだ。

 

「家族」とその幸せについて考えさせられた

小学6年生の十和（とわ）には、答えがわからなかった。楽しい母、優しい父、かわいい妹。客観的に見れば、きっと恵まれているはずなのに、どうして心はこんなにモヤモヤするのか。気持ちを整理する間もなく、母は半ば強引に中学受験を決めてしまう。十和が本音を吐き出せるのは、LINEで繋がる「あの人」だけだった。

このままじゃ息が詰まる。思い切って家を出たい。そんな衝動に駆られた十和の思いは、大阪で一人暮らしをする祖母へと向かう。そして、大阪の私立中学に進むことを決意する。もちろん、家族は大騒ぎ。特に父は猛反対するが、ある条件を出し、それを受け入れることで、十和の決意は本格的なものとなる。

中学受験を通して、家族はそれぞれの「幸せのカタチ」と向き合うことになる。バラバラになりかけた家族は、この問題を乗り越えることができるのか——？

さらに、45万部を突破した人気シリーズ『店長がバカすぎて』のあの山本猛店長も登場！ 受験と家族のリアルな葛藤を描きながら、温かな希望をもたらしてくれる一冊。読んだあと、きっと「家族」について考えずにはいられなくなるはずだ。

「カタチ」に捉われずに生きていこう

この本のタイトルには「家族の幸せの形」とあるけれど、読んでみると、それだけにとどまらず、“それぞれの家族のかたち”そのものにしっかりと焦点が当てられていることがわかる。

家族のかたちは、今や本当にさまざまだ。核家族、シングルペアレント、LGBTQ+など、多様なあり方が少しずつ当たり前になってきた。

こうした「多様性」は、家族の形に限らず、働き方や教育、そして生き方そのものにも広がっている。けれど、その一方で、「普通」や「一般的」という言葉に縛られ、いまだにどこかで“正解の形”を求めてしまう人も少なくない。

ボク自身もこの本を通じて、あらためて気づかされたのは、「自分の形を信じること」の大切さだった。たとえそれが周りと違っても、少し不格好でも、自分にとってしっくりくる生き方こそが、本当の意味での「幸せの形」なのではないだろうか。

“こうでなきゃいけない”という固定観念にとらわれず、自分のスタイルで歩んでいく勇気。そのヒントが、この一冊には詰まっている。

 

今までよりも「明日」が楽しみになる。
そんな未来を想像させてくれるこの本は、ひとりでも多くの人に読んでもらいたい１冊です。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。