【書評】本の虫 小川の本棚 「これから大人になるアナタに伝えたい10のこと　自分を愛し、困難を乗り越える力」presented by Book cafe & bar Sen 093

作品名：これから大人になるアナタに伝えたい10のこと　自分を愛し、困難を乗り越える力
著者：サヘル・ローズ
出版社：童心社

児童書だけれどもすべての人に読んでもらいたい

イラン出身で、7歳までは孤児院で過ごし、8歳のときに日本へ。その後は日本で育ち、現在はタレントとして活躍しているサヘル・ローズさん。彼女の壮絶な人生を描いたこの一冊は、タイトルにもあるように「児童書だけれども、すべての人に読んでもらいたい」と紹介されたことがきっかけで、手に取った。

「児童書」と聞くと、「子ども向けかな」と軽く考えてしまう方も少なくないと思う。かつての自分も、まさにそうだった。たとえるなら、コーヒーのアメリカンのように、少し薄味の印象を抱いていたのだ。けれど、実際に読み進めると、その内容の濃さに驚かされた。むしろこれはエスプレッソ。深くて、力強くて、心にガツンと響く一冊だったのだ。

コーヒーの例えはさておき、この本は、子どもにも伝わるやさしい言葉で書かれながら、大人の心にも静かに、そしてしっかりと届いてくる。戦争、家族、差別、そして人と人とのつながり——どれも、私たちが日々の暮らしのなかで真正面から向き合うべき、重くて尊いテーマばかりなのだ。

子どもから大人まで、読む年代によって受け取り方が変わる、そんな懐の深さがある。道徳の教科書のようでもあり、社会を見つめ直すヒントにもなる一冊だと思う。

だからこそ、この本はより多くの人の手に届いてほしい。年齢を問わず、誰かの心にそっと寄り添い、そっと火を灯してくれる、そんな力を持っていると思う。

 

サヘル・ローズさんが全身で語る「人生の指南書」

戦争によって人生を翻弄され、養母とともに来日してからも、貧困やいじめに苦しんだサヘル・ローズ。

幼いころから積み重なった辛い経験は、彼女の心に大きな穴を空けたのだという。

けれども、さまざまな出会いを経て、サヘルさんは少しずつ自分の心の形を受け入れ、愛し、笑顔で前を向けるようになったのだ。

暗闇と孤独の中を必死に生き抜いてきた彼女だからこそ、悩みの渦中にいる子どもたちの孤独や痛みにそっと寄り添い、「大丈夫」とあたたかく語りかけることができる。

それは、決して押しつけではない、サヘルさんだからこそ伝えられるメッセージなのだ。

また彼女は、世界中を旅し、紛争により難民となった人びと、貧困の中で苦しむ人びとに会いに行き、支援の活動を続けている。

祖国を追われ、今もなお過酷な状況にある人々の声に耳を傾け、自らの心に引き寄せてその現実を見つめているのだ。

その旅は、きっと、幼い頃の自分自身を救うための旅でもあったのだろう。

世界の現実に触れる中で、彼女がたどり着いた「真実」とは何だったのか――。

この本には、未来の大人たちに向けて、「自分を愛し、他者と手を取り合って生きていく」ためのヒントが詰まっている。

知ることからはじめてみる

この本の終わりに、こう記されている。

今は、書籍やテレビ、新聞だけでなく、YouTubeなどでも気軽に情報が手に入る時代。

わざわざ遠くへ行かなくても、自宅にいながら世界を知ることができる。そうであれば、やらないほうが損だとすら思う。

そして、もしその中で少しでも心が動いた分野があれば、もっと深く学び、自分の目で確かめに行けばいい。

そのきっかけとして、たった一日の1%──わずか15分でいい。

個人的には、「知る」という行為そのものが、すでに立派な社会貢献なのだと信じている。

大きな一歩を踏み出す必要はない。

だからこそ、あなたにも「知ること」からはじめてほしいのだ。

そしていつか、たとえほんの1ミリでも社会が良くなったなら、きっと、そこから世界は変わっていくのだと思う。

 

読みやすく、心の奥にしっかりと大切なことを届けてくれるこの本は、老若男女に関係なく、すべての人に贈りたい１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。