【書評】本の虫 小川の本棚 「歪んだ幸せを求める人たち」presented by Book cafe & bar Sen 094

作品名：歪んだ幸せを求める人たち
著者：宮口幸治
出版社：新潮新書

強い存在感に魅かれて手に取った一冊

この本は、とある書店で何気なく本を眺めていたとき、ふいに強い存在感を放ってきた一冊だった。それが、この『歪んだ幸せを求める人たち』である。

モノクロのイラストと黄色い背景、そして何かを訴えかけてくるような自画像が、強く目を引いた。

迷わず購入した。

ボクは普段、障がい福祉の仕事に従事しているため、この手の本には関心があり、読む機会も多い。

だが、今回はそれだけでは終わらなかった。

うまく言葉にするのは難しいが、「他人事ではない」と直感した。

ここで誤解しないでほしいのは、私が深刻に悩んでいるわけではないということだ。

ただ、自分でも気づかないうちに、負のスパイラルに陥っていることがあるのではないか。そんな考えがふと頭をよぎった。

きっと、この感覚は多くの人が一度は抱いたことがあるはずだ。

もし心当たりがあるなら、この本を手に取ってほしい。

 

あの『ケーキの切れない非行少年たち』の第三弾

タイトルを目にしたことのある方も多いだろう。シリーズとしては第三弾だが、本書は一冊で独立した内容となっており、前作を読んでいなくても十分に読み進めることができる。

繰り返すが、今回紹介する本のタイトルは『歪んだ幸せを求める人たち』だ。

「おばあちゃんを悲しませたくないので殺そうと思いました」——そんな言葉に、思わずページをめくる手が止まった。

非行少年の中には、時に常識では理解できないほど歪んだ論理で行動してしまう者がいる。だが、どんな少年であれ「幸せになりたい」という思いは共通している。

問題は、その「幸せ」を求める方法があまりにも歪んでしまっていることだ。

そしてそれは、非行少年だけに限られた話ではない。ボクたちのすぐそばにも、気づかぬうちに似た構造が潜んでいるのかもしれない。

本書では、そうした少年たちの戦慄すべき思考の裏側を、豊富な臨床例をもとに明らかにしている。

さらに、その歪みから抜け出すための手立ても、専門家の視点で丁寧に提示している。

自分の「考え方」に歪みはないか？

この本は、大きく言えば「認知の歪み」について書かれている。

けれど、自分の考え方が歪んでいるかどうかなんて、そう簡単にはわからない。

むしろ、それが「当たり前」だと思っているからこそ、気づけない。

その怖さを、改めて痛感させられた気がする。

本書に登場する事例は、確かに極端に映るかもしれない。

だがそれでも、「そう考えてしまう人も、たしかにいるよな」と共感してしまう自分がいた。

こうした行動に至った人たちには、他の解決策が見えていなかったのだと思う。

もしボクが何かを伝える立場にあるなら、他の選択肢に気づけるように、他者とのコミュニケーションを通じて情報を得たり、読書によって思考の幅を広げることをすすめたい。

自分以外の人の考えに触れることは、自分を救う力になるのかもしれない。

誰にでも心当たりのあるような「思考の歪み」に、そっと気づかせてくれる。

そして、少しずつでも修正していこうと思わせてくれる。

そんなふうに、自分の生き方と優しく向き合わせてくれる、大切に手元に置いておきたい１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。