【書評】本の虫 小川の本棚 「障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック あなたがあなたらしく生きるためのヒント」presented by Book cafe & bar Sen 101

作品名：障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック
　　　　あなたがあなたらしく生きるためのヒント
著者：野口晃菜　松波めぐみ
出版社：現代書館

SNSで存在を知り、即座に購入

手持ち無沙汰の時間に、なんとなくSNSを眺めていたとき、ふと目に留まったのがこの本だった。

読書パトロールをしていたわけでもなく、ほんの隙間時間を埋めるためのスクロールの途中で、思わぬ情報を拾った。

そしてその勢いのまま、迷わずポチッと購入した。

自分には、障がいのある10代の子どもはいない。

だけど、毎日出会う人たちの多くは、まさにその当事者であり、その家族。

だからこそ、どこか他人事ではなく、自分のことのように読み進めることができた。

「まさに、これ！」と膝を打つような瞬間が、何度もあった。

その内容については、またあらためて触れるとしよう。

この本に書かれている情報は、誰が読んでも分かりやすいように、すべてにルビが振られている。

文章もやさしく、スッと入ってくる言葉で綴られている。

本人にも、サポートする人たちにも、どちらにとっても優しく届くつくりになっている。

 

これは手元に置いておくべき１冊

学校、友だち、恋愛、家族、進路、就職など、10代が直面する9つのテーマをしっかり押さえた1冊。

障がいのある子どもたちが感じるモヤモヤに対して、「社会モデル」の視点から答えてくれる。

すべての漢字にルビがふってあり、全ページにイラストもついていて、とにかく読みやすい。

内容もやさしく整理されていて、本人にもサポートする人にも届きやすくなっている。

「どうして自分ばっかり頑張らなきゃいけないのか」――
そんなふうに思ってしまうときもある。

けれど、それは“努力が足りない”わけじゃない。

“合理的配慮”が足りていないのかもしれない。

この本は、本人のせいにしない。

社会のつくり方を問い、環境の工夫や制度の利用で道がひらけることを教えてくれる。

だから、読みながらどこかホッとするし、心が少し軽くなる。

しかも、セクシュアリティや恋愛、性のことにもきちんと触れている。

従来の福祉書では語られなかったテーマも丁寧に取り上げている。

障がいのある先輩たちのリアルな声も満載で、「あ、自分だけじゃない」と思える。

巻末には相談先リストもあり、今すぐ使える実用性もある。

どんな障がいのある人にも寄り添える構成になっているのが良い。

だから、自分のためにも、大切な誰かのためにも手に取ってほしい１冊である。

「まさに、これ！」は自分もできていないかも

この本には、たくさんの当事者の声が詰まっている。

だからこそ、ボクらの胸にまっすぐ刺さる言葉が多いのかもしれない。

中でも「合理的配慮」についての説明がとてもわかりやすかった。

一方で、「親に自分の意見を言えない」ことにも触れていて、ハッとさせられた。

親や支援者が「よかれ」と思ってやっていることが、実は本人の意思に反していることがある。

それを読みながら、ボク自身の経験を思い出した。

以前、耳の聞こえない友人たちと居酒屋に行った時、何気なく代わりに注文しようとした。

すると「自分で注文したい」「店員さんと関わるきっかけを奪わないでほしい」と言われた。

そのとき、自分が勝手に「不自由」「苦労」と決めつけ、配慮という名の“正義”を押しつけていたことに気がついた。

相手が何を求めているのかを確認せず、「いいことをしているつもり」になっていた自分が、恥ずかしかった。

この本には、そんな思い込みをやわらかくほぐしてくれる力がある。

 

一人ひとりが、その人らしく生きるために必要な視点や情報が詰まっている。そして、きっと自分のそばにいる大切な誰かの人生を、少し豊かにしてくれる１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。