【書評】本の虫 小川の本棚 「見えない世界で見えてきたこと」presented by Book cafe & bar Sen 103

作品名：見えない世界で見えてきたこと
著者：石井健介
出版社：光文社

シンプルな表紙と気になるタイトルに心を奪われた

書店には無数の本が並んでいる。

あっちを見ても、こっちを見ても、本。本。本。

そんな中から「これが読みたい」と思える１冊に出会うのは、実はなかなか難しい。

一見、棚のすべてを見ているつもりでも、意外と多くの本は視界に入っていなかったりする。

だからこそ、表紙のデザインは大事だ。

最近は、緻密なイラストや色鮮やかなデザインが多い印象がある中で、
この本のシンプルな表紙が、かえって強く心に残った。

さらに目を引いたのがタイトルにある、矛盾した言葉の組み合わせ――
「見えない」と「見える」。

えっ、どういうこと？と思わせるそのフレーズに、ボクの心は一気に引き込まれた。
これはもう、読まずにはいられない。

そんな偶然の出会いだったけれど、読み終えた今、「これは必然だったな」としみじみ思う。

この本を通して、きっと何か大切な視点が手に入る。

そして、その視点は、これからの毎日に小さな変化をもたらしてくれる。

このコラムが、そんな一冊と誰かをつなぐ“ちょっとしたきっかけ”になれば嬉しい。

 

「見えなくなって、見えたもの」

「視力を失った僕は今、青く澄んだ闇の中に生きている」

この一文に出会った瞬間、静かに息をのんだ。

ああ、これはただの“エッセイ”じゃない。目に見える世界から離れた先にある、新しい「視界」の物語なのだと。

見えていたころには気づけなかったもの。

それは、自分の弱さを許すことだったり、誰かに頼ることの尊さだったり。

この本の中には、そうした「目には見えない大切なもの」がたくさん詰まっている。

涙を我慢せずに泣ききること。人に手を伸ばすこと。

どれも簡単そうでいて、つい遠ざけてしまいがちなこと。

でも――
「僕は生きることがずっと楽になった」という言葉に、救われる人がきっといる。
ボクもそのひとりだった。

視覚を失った著者が、その先で見つけた「本当に大切なもの」
誰もが見落としがちな「日常の光」を、この本はそっと教えてくれる。

ジェーン・スーさんが推薦するのも納得の、心を整える１冊。

ぜひ、あなたの「視界」にも届いてほしい。

1日1日を大事にしたい

日常を過ごしているときに、「明日、目が見えなくなるかもしれない」とか「明日、病気になるかもしれない」と、本気で考えることは少ない。

今日と同じように明日もやってくると、どこかで信じているからだ。

だからこそ、毎日が永遠に続くもののように感じてしまい、気づけば暮らしが少し雑になっていたりもする。

そんなときに出会ったのが、この本だった。

著者の石井健介さんは、視力を失うという体験を通して、僕たちがつい見落としがちな「本当に大切なもの」を、静かに、でも確かに伝えてくれる。

当たり前に見えている景色。
当たり前にできている毎日のこと。

それがもし、明日突然なくなったら。

そんなふうに想像したとき、今この瞬間の暮らしを、もう一度しっかり抱きしめたくなった。

この本は、今の生活の尊さと儚さを教えてくれる。

 

自分の人生を後悔なく生きようと、心の芯に火を灯してくれる。
定期的に読み返したくなる、そんな大切な一冊だ。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。