【書評】本の虫 小川の本棚 「カラフル」presented by Book cafe & bar Sen 104

作品名：カラフル
著者：阿部暁子
出版社：集英社

「小川さんのお店にぴったりだと思う」

この本との出会いは、ボクの運営するBook cafe&bar Senに、ひとりの女性がふらりと訪れたことがきっかけだった。もともと知人だった彼女は、店内の書棚を眺めながら、ぽつりとこうつぶやいた。

「阿部暁子さんの本、置いてないんですね。このお店のコンセプトにぴったりなのに」

その時は、「へぇ〜」と何気なく聞き流してしまい、すぐに本を手に取ることはなかった。

だけど、それから半年ほど経ったある日、不意にその言葉を思い出し、ようやく購入したのが、この『カラフル』だった。

その頃には、阿部暁子さんが『カフネ』（講談社）で2025年の本屋大賞を受賞しており、すでに話題の作家として知られていた。

そんな時流に後押しされた形だったけれど、いざ読んでみると、まさに直球ど真ん中。

おがわにとって求めていた小説がここにあった。

読了後には、「なんでもっと早く読まなかったんだろう」とちょっぴり後悔すらした１冊です。

一度は夢を諦めた少年と少女の「再生」と「恋」の物語

物語のはじまりは、高校の入学式の朝。

駅のホームでひったくり犯を追いかける場面からスタートする。

ひったくりを追っていた荒谷伊澄（いずみ）の前に、突然、車椅子に乗った少女が現れる。

彼女はなんと、犯人の前に出て足止めを試みたのだ。

あとでわかったのだが、彼女の名前は渡辺六花（りっか）。しかも、伊澄と同じ高校の新入生だった。

口が達者で、気の強い六花に、最初は「なんだこの子」と思った伊澄。だけど、ふたりにはある共通点があった。

それは、“夢をあきらめた”ということ。

夢を追えなくなった少年と少女が、少しずつ心を寄せ合いながら、もう一度前を向いて歩いていこうとする。

ただの青春ラブストーリーではない。

心に傷を負ったふたりが、互いの存在に救われながら、自分の人生を再生していく、そんな物語。

やさしさだけじゃない。
強さと葛藤、そして不器用な希望が詰まった１冊です。

おがわの信念の答え合わせができた

何を隠そう、おがわの生業は「障害福祉」である。
約20年間、命懸けで現場と向き合ってきたからこそ、譲れない「想い」がある。

そのきっかけは、独立前に出会った上司の、ある言葉だった。
「障がいのある人だって、頑張りたいんよ」

当時は、「今のあなたでいいよ」「頑張らなくてもいいんだよ」というのが福祉業界の主流のスタンスだった。

そんな中でのこの言葉は、強烈だった。さらに上司は、こう続けた。
「頑張る機会を奪うことは、逆差別なんよ」

その言葉が、胸をえぐった。

はい。自分の価値観とは、真逆だったから。

けれど、その言葉は少しずつ自分の中に浸透していった。

そしていつの間にか、それはボクの信念に近づいていた。

それでも、やっぱり不安は残った。

それが「正しい」のかどうか確認できなかったからだ。

どれだけ経験を積んでも、20年この仕事をしてきても、その不安は完全には消えてくれなかった。

そんな時に出合ったのが、この本だった。

この本には、不安をそっと和らげてくれる言葉が、ぎっしりと詰まっていた。
読むたびに、心が軽くなった。

はい。救われました。

ボクを救ってくれた著者・阿部暁子さん、
そして、この本と出合うきっかけをくれた知人に、心から感謝しています。

ボクだけじゃない。

きっと、もっともっと多くの人の力になる――。

そんな確信を抱かせてくれるこの本は、まるでエナジードリンクのように背中を押してくれながら、チルドリンクのように心をそっとなだめてくれる。

元気をくれて、落ち着かせてもくれる、まさに“万能ドリンク”的な１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。