【書評】本の虫 小川の本棚 「わすれていいから」presented by Book cafe & bar Sen 107

作品名：わすれていいから
著者：大森裕子
出版社：KADOKAWA

保護猫チャリティイベントがきっかけでの出合い

とある年の2月22日、いわゆる「ニャン・ニャン・ニャンの日」に、保護猫チャリティのイベントに参加した。猫にまつわる絵本を読み聞かせる、というのがボクの役割だった。

ところが会場に入り、お客様の顔ぶれを見た瞬間、少し戸惑いが走った。――そう、〝大人が多い〟のだ。

急きょ、絵本のラインナップを変更することに決めた。そこで選んだのが、この『わすれていいから』だった。

もちろん、即興で選んだので内容はわからない。ただ、タイトルと表紙のイラストを見た瞬間、「これは間違いなく、いい本だ」と直感した。そして出番までの30分で一気に読み込んだ。

読み終えたときには、心を鷲掴みにされていた。

それだけじゃない。

絵本作家・おがわひろきとしても、「いつかこんな絵本が描きたい」と思わせてくれる、目標の１冊になった。

偶然の出会いから、生まれた運命の絵本。

だからこそ、この本はひとりでも多くの人に届けたい。心からそう思っている。

忘れられない絵本と出会った

猫と子どものかけがえのない物語。

でも読んでいるうちに、これは自分と実家のとら猫「ちぃ」との物語でもあると思えてきた。

実家には、ベビーベッドで寝ている自分の枕元に、ちょこんと寝転ぶ「ちぃ」の写真がある。

一緒に過ごした何気ない時間が、この絵本の中に確かにあるのだ。

『わすれていいから』は、猫の“おれ”と人間の“おまえ”がともに過ごす、成長と変化の日々を描いた物語。

隅っこにくっついて寝たり、ご飯をこっそり拝借したり。

そんな何気ない毎日が、気づけば愛おしい記憶になっている。

でも、ふとした瞬間に気づく。

いつの間にか、その隅っこに“おまえ”がいない時間が増えてきたことに。

この絵本は、ただの猫の物語じゃない。

「忘れていいよ」と言われても、忘れられない――

そんな記憶や感情が、静かに胸の奥に沁み込んでくる。

この本は、MOE絵本屋さん大賞 第2位をはじめ、数々の賞を受賞しているけれど、

何よりもすごいのは、“読んだ人が涙する確率”の高さだと思う。

あなたにとっても、きっと心に残るページがあるはず。

ぜひこの絵本を通して、そばにいた誰かを思い出してみてください。

出会いがあると必ず別れがくる

頭ではわかっているのに、つい忘れてしまうことがある。

それは、「出会い」と「別れ」は、いつだってセットだということ。

この絵本は、そんな当たり前のことを、静かに、でも深く思い出させてくれる。

そしてページをめくるたび、これまで一緒に過ごしてきた犬や猫たちの思い出が、次々と蘇ってきた。

そう、この本には、心の奥に眠っていた大切な記憶を呼び起こす力がある。

当時は気づけなかった「時間の有限さ」や「かけがえのなさ」――

そんなことを、やさしく教えてくれるこの絵本は、まさに「愛情」がたっぷり詰まった一冊だ。

さらに、子どもの成長を静かに見守る猫の姿には、どこか「母性」さえ感じられる。

そして何よりも、このタイトル。「わすれていいから」

いっけん突き放すようにも聞こえるこの言葉にこそ、最大級のやさしさと愛が込められている。

それはもう、説明なんていらないほどに。

子どもよりも、大人にこそ読んでほしいこの本は、あなたの胸を打つ、感動の１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。