【書評】本の虫 小川の本棚 「言語の本質　ことばはどう生まれ、進化したか」presented by Book cafe & bar Sen 108

作品名：言語の本質　ことばはどう生まれ、進化したか
著者：今井むつみ　秋田喜美
出版社：中公新書

おすすめとして紹介してもらった１冊

ある日、スマートフォンの通知音が鳴った。

久しぶりに連絡をくれた相手から届いたのは、１枚の写真。

それは、この本の表紙だった。

本文を読むまでもなく、「オススメ」だとすぐにわかった。

興味をそそるタイトル。そして何より、普段から尊敬している相手からの紹介。

迷わずその場で「ポチっ」と購入ボタンを押した。

届くまでの数日、ワクワクしながら待ち、職場に持参して机に置いておくと――

通りがかったひとりの男性が手に取り、パラパラとめくり始めた。

やがて、「わかる、わかる」と笑顔でつぶやく。

後日、その彼に聞くと、帰宅後すぐに同じように「ポチっ」としたとのこと。

ひとりの「おすすめ」から始まり、波紋のように広がっていく１冊。

この本は、これからも静かに、でも確実に、広がり続けるに違いない。

誰しもが使っている「言語」の本質とは？

ボクたちは毎日あたりまえのように「ことば」を使っている。

「おはよう」から始まって、「ありがとう」で終わる日もあれば、「あー疲れた」で終わる日もある。

でも、ふと立ち止まって考えてみたことはあるだろうか――なぜヒトは「ことば」を持つのか、と。

この本は、その問いから始まる。

子どもはどうやってことばを覚えるのか？

言語という巨大なシステムはどこから生まれたのか？

そして、動物やAIとの違いはどこにあるのか？

ヒントになるのは、オノマトペと、アブダクション（仮説を立てて学ぶ力）。

「ワンワン」とか「ドキドキ」みたいな擬音が、実は人間らしさのカギを握っているなんて、ちょっと面白い。

認知科学者と言語学者がタッグを組んで、人類史の深い森に分け入り、「ことば」の誕生と進化を追いかけていく。

読み進めるうちに、ふだん何気なく口にしている一言一言が、実はとんでもなくすごいことに思えてくる。

「ことば」を知ることは、人間を知ること。

この本を読み終わったとき、きっと、あなたの頭の中にある「ことばの地図」が少しだけ広がっているはずだ。

絵本作家としての活動にもヒントを与えてくれた

ボクは「言葉」と切っても切れない活動をしている。

絵本、ラジオパーソナリティ、そしてこの書評。

常に言葉を選び、磨き、届けることを繰り返している。

そんな背景を知っているから、この本を紹介してくれたのだと思う。

そして、その想いは見事に的中した。

読み進めるうちに、ものすごく影響を受けたのだ。

中でも衝撃だったのは、濁点と半濁点が与えるイメージの違い。

今までまったく意識していなかったけれど、その視点を知った瞬間、言葉の世界の見え方が一変した。

もちろん、それ以外にも腹にストンと落ちる発見がいくつもあり、読み終えたあとはパワーアップしたような感覚さえあった。

さらに、オノマトペの奥深さにも触れ、もっと掘り下げたい、もっと使ってみたいという欲まで生まれた。

何気なく使っている言葉の本質を知ることは、他の言語の本質にもつながり、思考の可能性を大きく広げてくれる。

言葉を生業にしている人はもちろん、日常の中で言葉をもっと味わいたい人にも手に取ってほしい一冊だ。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。