【書評】本の虫 小川の本棚 「100万回生きたねこ」presented by Book cafe & bar Sen 110

作品名：100万回生きたねこ
著者：佐野洋子
出版社：講談社

あるギタリストの大切な１冊

大人に向けた本気の読み聞かせ──「絵本ライブ」をやることになった。

その打ち合わせの席で、あるギタリストがこう言ったのだ。

「『１００万回生きたねこ』は大好きな絵本だから、絶対にラインナップに入れてほしい」

その一言がきっかけで、久しぶりにこの作品を読み返すことになった。もちろん子どもの頃から知っている絵本ではある。けれど、大人になってから噛みしめるように読んだことはなかった。そういう意味では、本当に貴重なきっかけをもらったと思う。

改めてページをめくると──深い。哲学的。

大人になった今だからこそ分かる本質に、心を突き動かされた。さらに驚いたのは、物語とイラストの絶妙なバランスだ。ほんの少しでも柔らかな雰囲気の絵であれば、まったく違うニュアンスの本になっていたのではないかと思う。

不屈の名作。だからこそ、今こそ読み返したい。
そして、あなたにもぜひ手に取ってほしい一冊だ。

絵本は子どものもの？──いいえ、大人にこそ響く物語

「100万年もしなないねこがいました。100万回もしんで、100万回も生きたのです」

この出だしだけで、すでに心をつかまれてしまう。

佐野洋子さんの代表作『100万回生きたねこ』は、子どものころに触れた人も多いと思う。ボク自身も、もちろんその一人だ。

でも──大人になって読み返してみると、まるで違う顔を見せてくれる本だった。

子どもの頃は「立派なとらねこの冒険譚」として読んでいたのに、大人になった今読むと、命、愛、そして生きることの意味を突きつけられる。とても哲学的で、ときに残酷なまでに正直な物語だ。

絵本は子どものもの、なんていう先入観を見事にひっくり返してくれる。

週刊朝日の書評にもあるように「これはひょっとすると大人のための絵本かもしれない」。けれど同時に、日本経済新聞の評の通り、子どもから大人まで、それぞれの心の深さに応じて物語を受けとめられる。だからこそ、世代を超えて読み継がれてきたのだろう。

読むたびに違う気持ちを抱かせてくれる、不思議な物語。

「100万回生きたねこ」は、何度でも読み返したくなる、不屈の名作だと胸を張って言える。

誰もが通る道だから、何度でも読み返したい

この絵本の素晴らしさは、読む人の人生の段階によって、まったく違う感動を与えてくれることだと思う。

子どもの頃は、100万回生きるとらねこの不思議さに心を奪われる。

青春期には、白いねことの恋に胸を熱くする。

そして大人になって読み返すと、「愛すること」の重さに涙する。

さらに年を重ねて読めば、また違う発見があるに違いない。

だからこそ、この本は手元に置いておきたい。

人生の節目ごとに、何度でも読み返したくなる。

「愛されること」から「愛すること」へ——。

その大切な転換点を教えてくれるこの絵本は、きっとあなたの人生にも、静かな革命を起こしてくれるだろう。

そしてもちろん、ボクの人生にも。

正直なところ、今でも「愛すること」より「愛されたい」と思う自分がいる。だからこそ、この絵本を定期的に読み返したいのだ。

そして、とらねこのように、自分のこともちゃんと愛せるようになりたい。

人と人をつなぐ。心と心をつなぐ。
それが、本当に良い絵本の力なのだと、改めて教えてくれる一冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。