【書評】本の虫 小川の本棚 「青い鳥、飛んだ」presented by Book cafe & bar Sen 117

作品名：青い鳥、飛んだ
著者：丸山正樹
出版社：角川春樹事務所

読書管理アプリの〝あなたへのオススメ〟で表示された出合いがきっかけ

ボクは、読んだ本をアプリで管理している。
どのくらい読んだかが一目でわかるし、気になった言葉をメモしたり、感想を残したりもできるのでとても便利だ。

いろんなアプリがあるので、自分に合ったものを見つけると、読書がもっと楽しくなると思う。

そんなアプリで、ある日ふと目に止まったのがこの本だった。

著者の丸山正樹さんの作品はいくつか読んでいたし、タイトルにある「青い鳥」という言葉が決め手になった。

なぜなら、ボクの運営する会社の名前は「一般社団法人青鳥舎」

この偶然、いや、もはや運命を感じずにはいられなかった。

もちろん、アプリやECサイトではおすすめの本がいくつも表示される。

だけど、実際に「読んでみよう」と思える本に出会えるのは、ほんのわずかだ。

そう考えると、この一冊は偶然のようでいて、必然の出合いだったのかもしれない。 

「正義」と「生きる」ことの狭間で揺れる、二人の人生の物語

大手コンビニチェーンの店主・柳田克己は、「万引き犯は最低の人間だ」という信念のもと、万引きを“防ぐ”のではなく、“捕まえる”ことに執念を燃やしていた。

しかし、ある日、菓子パンを盗んだ男を取り押さえようとして、思わぬ悲劇が起きてしまう。

男はそのまま帰らぬ人となり、克己の人生は一瞬で暗転する。

一方、児童養護施設で育ち、過去に万引きで捕まった経験を持つミチル。

バイトを掛け持ちしながら懸命に生きていたが、コロナ禍で仕事を失い、気づけば違法なメンズエステで働く日々に。

それでも彼女は、自分の夢を諦めず、ただ前を向こうとしていた。

時折ふと頭をよぎる——「あの日、捕まっていなければ、今の私は違ったのだろうか」と。

生き方も、立場もまったく異なる二人。

けれど、ある事件をきっかけにその人生が交わったとき、互いの“正義”と“痛み”が静かに共鳴していく。

罪とは何か。許しとは何か。

この物語は、「正しさ」と「生きること」の間で揺れ動く人間の姿を、鋭く、そしてやさしく描いている。

読み終えた時、あなたはどんな感情を抱いているだろうか。

他人事のようで、どこか自分事でもある。

そんな“現代のリアル”を映し出す、心に残る作品です。

やっぱり、こういう作品が好きだ。

この作品がどこまでリアルなのかは分からない。

だけど、確実に現実のどこかで起きていることであり、そして多くの人に伝えたい、問いかけたい作品であることは間違いない。

そんな思いで、ボクはこの物語をノンフィクションやルポを読むような気持ちでページをめくった。

読み進めながら、ふと気づいた。

あぁ、ボクはこういう“社会派”の作品が好きだったんだ、と。

本のジャンルはいろいろあるけれど、「好きなもの」に偏ってしまうと、いつのまにか同じような本ばかりを選んでしまっている自分がいる。
この作品は、そんな凝り固まった読書の習慣をリセットしてくれた気がする。

丸山正樹さんの作品には、社会の中で見落とされがちな“現実”を、静かに、でも確実に突きつけてくる力がある。

この一冊をきっかけに、未読の作品も順番に読んでいこうと心に決めた。

一冊の本がきっかけで、読書の幅が広がっていく。
そして、その広がりが人生の景色を豊かにしてくれる。

そんな読書の原点を思い出させてくれた一冊です。

著者が読者に伝えたいのは、決してフィクションではない「社会の現実」。
この本を読み終えたあと、あなたは何を感じ、どう生きていきますか？

その問いかけが、静かに胸の奥に残る。
だからこそ、この本は“今”を生きるあなたに必要な一冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）を出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。