【書評】本の虫 小川の本棚 「あなたが僕の父」presented by Book cafe & bar Sen 119

作品名：あなたが僕の父
著者：小野寺史宜
出版社：双葉社

待ちに待った〝小野寺ワールド〟の新刊

新刊が出るたび、理由なんていらない。問答無用で購入してしまう――そんな“推し”が、ボクには何人かいる。

そのひとりが 小野寺史宜さん だ。

だからこそ、新刊情報は逐一チェック。

発売が近づくと、そわそわ、ソワソワ。

情報を見つけた瞬間には、心の中で小躍りしている……いや、ここだけの話にしてほしいのだが、実際ちょっと踊っているかもしれない。

さて、そんな全力信頼の小野寺作品。今回のタイトルは、いつも以上にボクの心を鷲掴みした。

『あなたが僕の父』

……もう、この時点で感動の気配しかしない。

しかも“家族もの”。
はい。完全におがわの琴線直撃。

正直に言うと、もしこれが別の作家さんの作品だったとしても、きっと手に取っていたと思う。それほどまでに“刺さる”テーマ。

つまり今回は、

〝推し作者 × 推しテーマ〟という、絶対に外しようのない組み合わせ。

出会うべくして出会った。そんな確信すら覚えた１冊です。

父と息子、そしてそれぞれの「暮らしの選択」

富生が故郷・館山を離れ、東京で暮らし始めてから二十年以上。

母の死をきっかけに、帰省することもほとんどなくなっていた。

そして富生は40歳。今のボクも40歳。

この時点でもう、共感しかないのだ。

読み進めていくと、富生の実家には78歳の父がひとり暮らし。

しかし、その父の様子が最近どうにもおかしい――。

久しぶりに実家へ戻った富生が目にしたのは、

確実に進んでいた“老い”の現実だった。

不安に駆られ、父との同居を決める富生。

けれど、東京には８年付き合っている恋人がいる。

彼女との関係、父との距離。

それぞれの“生活”をどう守り、どう選ぶのか。

親の老い、家族のかたち、そして「暮らし」をそっと見つめ直す物語。

静かに重ねられる会話のなかに、誰もが感じたことのある“家族の時間”が流れている。

読み終えたあと、自分の親のことが頭をよぎり、

「そろそろ実家に行かねば」と思う人も多いだろう。

温かく、そして胸に静かに沁みていく――

家族を想う気持ちがふつふつと湧き上がる、そんな物語です。

手遅れになる前に‥

いきなり不穏なことを言うかもしれないが、どんな出来事も、そしてラブストーリーでさえも、〝突然〟やってくるものだ。

それなのにボクらは、いつもどこか呑気に毎日を過ごしてしまう。――はい、頭ではちゃんとわかっているんです。

だけど、この本を読み終えたとき、そんな呑気な自分に“喝”を入れようと思った。

この物語のように、

「どうにもおかしい――」と思ってからでは遅いのではないか。

後悔しないためには、何もない“今”だからこそできる対話や関わりがある。

そんな当たり前を痛感させられた。

正直に言えば、ここ数年のボクは、年末に２時間だけ実家へ顔を見せる程度。

それ以外はほとんど帰っていない。

でも、この本を読み終えて思った。

これからは、もう少し頻繁に帰ってみよう、と。

それは「手遅れになる前に」というネガティブな気持ちだけではない。

もっと前向きに、「もう少し話を聞きたい」と思えたからだ。

この年齢になったからこそ話せること、この距離になったからこそ聞けることがある。

だから、会いに行こうと思う。

今の自分にしかできない時間を、ちゃんと過ごしてみたい。

平凡な人たちの、平凡な日常。
だけど、そのなかにこそ静かなあたたかさが宿る。

だからこそ、よりリアルで、深く心に染みる。
寒くなってきた今、こころの芯までそっと温めてくれる１冊です。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）を出版。毎週金にスマヒロで書評を担当。