【書評】本の虫 小川の本棚 「アンビシャス　北海道にボールパークを創った男たち」presented by Book cafe & bar Sen 123

作品名：アンビシャス　北海道にボールパークを創った男たち
著者：鈴木忠平
出版社：文藝春秋

登場人物の声を聴き、胸が熱くなり……再読へ

この本が出版されたのは2023年3月末。
ボクがこの本を初めて読んだのは2025年の5月、初めてエスコンフィールドへ行く直前のことだった。

そして今回、同じエスコンフィールドで開催されたセミナーに参加し、この本の著者、登場する人たちのリアルな声を生で聴いた。
——その瞬間、もう一度読み返さずにはいられなかった。

短期間で2度読んだにも関わらず、「読み取れる熱量」が天と地ほど違った。

それもそのはず。
はじめて読んだときは、遠い存在の“誰かの物語”。
だけど今は、同じ空気を吸った“すぐ近くの現実”。

知識として読んでいた内容に、登場人物たちの想いと息づかいが重なり、ページのすべてが鮮やかに立ち上がってきた。

同じ本でも、自分の背景が変わるだけで、こんなにも別物になる。
それを見事に教えてくれた1冊です。

北海道の未来を変えた「夢」が動き出すまで

ボールパークを創りたい——。
その一言から始まった、とてつもなく大きな挑戦がある。

北海道日本ハムファイターズのボールパーク構想が生まれたのは2010年。
本書は、そのプロジェクトリーダー・前沢賢さんを中心に、新球場建設地が決定するまでの長い道のりを描いたノンフィクションだ。

札幌市か、北広島市か。
行政の思惑、地域の誇り、住む人々の期待と不安……。
ひとつの決断を巡り、数えきれない数の想いが交差していく。

ただひとつ、すべてに共通していたのは「北海道の未来を明るくしたい」という願いだった。

書き手は、プロ野球に深く寄り添い続けてきたノンフィクション作家・鈴木忠平さん。
中日・阪神担当のスポーツ記者を16年務め、Number編集部を経て独立。
ノンフィクション賞をはじめ錚々たる賞を受賞した、まさに“物語を掘り起こすプロ”だ。

だからこそ描ける、夢の裏側。
立ちはだかる現実と、それでもあきらめない人たちの姿。
ページをめくるごとに、胸の奥が熱くなる。

「ボールパークはこうして生まれた」
この事実を知ったあとに見るエスコンフィールドは、きっとまったく違う景色になる。

スポーツ好きにも、まちづくりに興味がある人にも。
そして、挑戦するすべての人に読んでほしい一冊です。

読書を100倍おもしろくする方法

この本を読んで、改めて強く伝えたいことがある。
本は「読み終わり」で終わりじゃない。

作者に会いにいく。
舞台となった場所に足を運ぶ。
登場した食べ物を味わってみる。

そうやって、自分のほうから物語の世界に近づいてみると、本の世界と自分の現実がピタッとつながりはじめるのだ。

……とはいえ、ジャンルによっては「宇宙には行けない」「戦国時代には戻れません」みたいなハードル多めの本もあるだろう。

そんな時は、ただ一つ。
「同じ本を読んだ仲間」を見つければいい。

それだけで、「あの場面さぁ！」「分かる！！」と、感情が一気に色づいて、面白さが跳ね上がる。

これから読む本でも、昔読んで積読タワーになっている本でもいい。

ページを閉じたその先へ、もう一歩だけ踏み出してみてほしい。

きっとあなたの世界は、昨日よりほんの少し華やかになる。

そして気づけば、読書が今までより100倍、いや、それ以上に楽しくなっているはずだ。

もし、エスコンフィールドに行く予定があるなら、行ったことがあるなら、この本は必読だ。

あなたの読書スタイルを変える一冊。
ぜひ“現地”とセットで、物語の続きを楽しんでください。

Profile#

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）を出版。毎週金にスマヒロで書評を担当。