帯広で映画を観た!シネマ de 十勝は、帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女子が、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民として、十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格の実力を発揮しつつ、帯広・十勝の話をしつつ、映画を語るコラムです。今週の映画は『グランメゾン・パリ』です。
前回のコラム「帯広で映画を観た!」はコチラ
今年初の映画は「グランメゾン・パリ」
日曜劇場で放送されたテレビドラマ『グランメゾン東京』シリーズの映画化作品です。
型破りな腕利きシェフ尾花夏樹(木村拓哉)と、絶対的な味覚を持つシェフ早見倫子(鈴木京香)、ギャルソン京野(沢村一樹)、シェフ相沢(及川光博)ら、東京でミシュラン三つ星を獲得したチーム『グランメゾン』。今度はパリで新たに増えたメンバーとともに、逆境や困難を乗り越え三つ星を目指すストーリー。
邦画に対するトラウマと不安を抱えながら、新年一発目の映画が口に合うか、幸先を占ってきました。
思っていた以上に良かったです。
直近公開された映画で見た中では、年の初めに見るのには一番良かったかも。
(と言っても、まだそんなに見れてはいませんが)
私、「良い」と感じた映画を見た後、買い物をしたくなる習性があります。
大体、仕事帰りのナイトショーなのでコンビニに寄って終わるんですが。
(逆に「辛いわ……」となったら「感想書くには、また別作品見にこなきゃいけないじゃないか!! 時間とお金の無駄だった!!」と怒りの緊縮財政になります)
この映画を見た後は、フレンチと手の込んだスイーツがとっても食べたくなりました。
多分、お正月が明けたら食べに行くと思います。
結末はダークでもいいけれど、『ハレ』の日気分というか、お祭りや特別なイベント気分が続くのが、自分の中の「良い」映画の基準です。
(テーマパークの、座って2時間体験していられるアトラクション感覚とでも申しましょうか)
申し分のない主演・木村拓哉が提供されている作品
『グランメゾン・パリ』は、舞台も料理も非日常です。
シェフ尾花が(話さないけれど)韓国語も理解しているという設定で、フランス語を交えたり、結構字幕が登場します。
いかにもな日本人のカタカナ発音のフランス語で話していても、「ハハッ! 何言ってるか分からないよ!!」という態度であしらわれることなくフランス人に通じているのも、ご都合主義というより「木村拓哉なら通じる」という謎の説得力を感じました。
例)「ブルーライトがカットされている!」も常人には見えなくても、小泉孝太郎なら見えていそうな感覚。
『HERO』の久利生検事とか、ぶっちゃけ、何を演じていても木村拓哉に見えるんですが。
(悪口ではない)
木村拓哉は、もはや演技力がどうこうというのを超越した存在だと思う。
誰かを「カッコいい!」とか「ダサい」「演技が下手」といった基準値の多くは、自分の中の価値観の物差し――主観に依ります。
そう思わない(思えない)側が間違っているわけでも、悪いわけでもなく。
ただ趣味・嗜好や価値観の相違でしかありません。
ただ、その人を「カッコいい!」だとか「好感が持てる」思っている人が多い(と認識されている)と使われやすいだろうという世界で、長年「カッコいい」「スター」として重用され続けていることや、俳優・木村拓哉に相応しい役が当てられ続けてきたことだけでも、とてもすごいと思うのです。
『グランメゾン・パリ』の尾花夏樹というか木村拓哉は、好意的な人に向けて、恐らく申し分のない主演・木村拓哉が提供されています。
なので、木村拓哉がマンパワーで押し切る世界観が苦手な人や、「いつまで髪を染めて反骨者の役をしているんだ」といった人には全く向いていない作品でもあります。
脚本のアラはあるが、キャストの力強さに引っ張られる
ドラマについては「なんか特別編だか番外編かで、倫子さんが三つ星シェフになって調子に乗ってた気がする……」くらいの胡乱な記憶。
ミシュランに関しても「そういえば、東京で三つ星取ってても、フランスの三つ星は改めて取りにいかなきゃダメですよね……」くらいの認識。
そんな人間でも(あと全くドラマを見ていなかった知人でも)楽しめていたので、特段復習なしでも話は理解できるのではないかと思います。
むしろ初心者向けにあえてなのか、映画としての盛り上げのためか、尾花がドラマ版で培ったチームプレイと初心をリセットしていて、復習してきた人の方が混乱しかねない気がします。
ちなみに元ドラマの『グランメゾン東京』に限らず、テレビドラマは母が専門でして。
私はそれを横目で見ていたりいなかったりで、全般記憶があまりありません……。
というのも私も人を見た目で判断する心が強いので、日本のドラマの、メイン俳優のバーターというのか、大手事務所が顔も演技も微妙だけれど売り出したい若手を「イケメン」「美人」枠で差し込んでくるのが苦手なんです……。
紅白なども、某事務所の抜けたところに韓流枠が入った(しかもコチラはゴタついているところの一方に妙に肩入れしている)ようにも見えますが。
事務所が大きかったりでファンも多いと、不用意に波風を立てたり敵をつくらないように配慮すると、正直に思っていることも言いにくいわけで……。
(見てしまうと「言うほどイケメン……?」とか、別に公言する必要のない個人の感想でも溜まると「王様の耳はロバの耳ー!!」のような負荷がかかるのでございます……)
本作では、役としての進行は安心できないけれど、存在や演技は安心して見ていられる準主役として、韓国系パティシエのリック・ユアン(オク・テギョン)が登場します。
ユアンきっかけのゴタゴタや尾花との確執で話を動かしてくれるキーパーソンです。
(男女の恋愛ドラマが苦手なので、大変ありがたし)
そして「尾花の最初の挑戦時にパリでお店を開いていたとか、ユアン、君は何歳設定なんだ……?」といった小さな疑問や困惑も、終盤のリンダ(冨永愛)のすごい柄のセーターで全て吹き飛びました。
フランス在住の料理愛好家にして、ライタ―&グルメ雑誌編集長リンダ。
(というより、こちらもリンダというよりモデル冨永愛を感じるんですが)
旧知の三つ星レストランのオーナー親子の同伴者として、元彼のお店の存続がかかった料理を精査しにいこうという時の気合い服は、それでいいのか!?
「一周回ってカッコいいのか……? いやダサいよな……?」
とハイブランドに失礼なことを思っていました。
冨永愛は、さすがドレスを着こなしていても姿勢がいいので、「マダム」と呼ばれるのに相応しい風格と佇まい。
チーム『グランメゾン』が冷たくあしらわれるパリにおいて、しっかりと料理界に食い込み地位を確立してきた人感があり
「こんな柄物セーター、冨永愛でないとこのシーンで着こなせないよ(一般人なら事故だよ!)」
と目が離せなくなってしまいました。
「リンダ!? その謎セーターはどちらでお求めに……!?」
(後で調べたら、ボッテガヴェネタ44万円らしいです)
と困惑させられている間に、あれよあれよと話が進んでいったのでした。
何を言っているか分からないと思いますが、私も分からなくなってきました。
結論としては、見ている間に脚本の荒さとかは感じてはいても「木村拓哉力とか、及川光博の王子力とか、冨永愛の謎セーター力に押されたら、細かいことはどうでもよくなった」という話になります。
帯広出身の日本人シェフが、今もパリで戦い続けている
この作品の中で描かれている「逆境」の一つとしての差別が、よそ者に対する排他を含んだアジア人差別。
ただ胸糞悪い展開のようで「外から来た人に対する拒絶・防衛反応ってあるよね」「日本人だってそういうところあるでしょう?」という『お互い様』の反応に収束していき、「そうか、お互いをよく知らなかった/知ろうとしていなかっただけで、嫌な人なんていなかったんだ(借金取り以外)」という持っていき方は、ファンタジックではあるけれど後味のいい流れだと思いました。
排他的行動や、理性を超えた嫌悪感情や拒絶反応が存在することが「よくない! 正すべき!」といった綺麗事で否定されず、「壁があるのは仕方がない。その上でどう行動するか」といった現実的かつ前向きな方向で描かれているのも、良かったです。
フランス版ミシュランといえば、日本人初の二つ星を獲得した「Passage 53」の佐藤伸一シェフは帯広市出身です。
今も新店「Blanc」で三つ星に挑戦されています。
「Passage 53」オープンから一つ星、二つ星と2年連続での昇格は、ジョエル・ロブションやアラン・デュカス以来の偉業とのこと。
フィクションの尾花夏樹をも上回るだろう経歴の日本人シェフが、今もパリで戦い続けています。
その挑戦に想いを馳せながら、自身の思うような表現ができそれが評価されることを、陰ながら祈っています。
PROFILE
三崎 裕美子 | 腐女子 / 総統
1980年生まれ。北海道帯広市出身|釧路→新橋のサラリーマン(港区女子)→などを経て基本帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女。しかしてその実体は、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民。十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格。同年生まれのハリー・ポッター氏が通うホグワーツ・スリザリン寮に組み分けされたかったゲラート・グリンデルバルド信奉者。