地産地消のエネルギー利用が熱気球を未来へ
エア・ウォーター株式会社が推進する「液化バイオメタン(LBM)」は、十勝の酪農家から提供される家畜のふん尿を発酵させたバイオガスを液化したもの。メタンガスと二酸化炭素からなるバイオガスを精製し、極めて高純度のメタンガスに変換したものがLBMです。
このエネルギーを使うことで、二酸化炭素の排出を抑え、従来の化石燃料に比べて1時間あたり約120キロのCO2削減効果が期待されているといいます。1時間というと、熱気球のフリーフライトの所要時間をほぼ同じ。商用化されれば、熱気球1回分(フリーフライト)が、世界中のどのフライトよりもCO2を削減できるというわけです。
来年度中にも熱気球用燃料として正式販売(予定)
今回の実験では、LBMを主燃料に、補助的にプロパンガスを使用しながら観光用熱気球が飛行しました。気球が地上30メートルまで上昇し、降下を繰り返す姿は、まさに環境に優しい未来を象徴するシーン。この取り組みはまだ始まったばかりで、エア・ウォーターは来年度中にLBMを熱気球用燃料として正式に販売する計画を進めています。
十勝で生まれたエネルギーで熱気球を飛ばす
十勝の芽室町で行われた熱気球フライト実験では、十勝を代表する熱気球パイロット・篠田博行さんが操縦。熱気球は、地上30メートルまで上昇し、液化バイオメタンを搭載したタンクを使って何度も上昇・下降を繰り返しました。
前述した通り、液化バイオメタンを燃料として使うことで、通常のプロパンガスに比べて1時間あたり約120キロもの二酸化炭素(CO2)を削減できると言われています。これまで、化石燃料が主流だった熱気球の燃料に、持続可能なエネルギーを取り入れる第一歩となったのです。
篠田さんも「ボンベの小型化やバーナーの改良、火力UPのためのガスの混合など、まだまだ改善点はありますが、環境に優しい熱気球フライトの実現に向けて継続して取り組んでいきたい」と、その意欲を語っています。
パイロット篠田博行さんの「十勝空旅舎」とは
篠田さんは、35年以上熱気球に携わってきたベテランパイロット。本別町出身で、本別中央小、本別中、池田高を卒業後、20歳で熱気球のパイロット資格を取得しました。それ以来、十勝池田熱気球協会に所属し、国内外のレースやイベントに参加。彼にとって、熱気球は「思い通りにいかないからこそ面白い」もの。どんな風の流れに乗るかで航路が変わり、その度に異なる景色を楽しむことができる熱気球フライトの魅力に取りつかれ、35年間続けてきました。
そして、2023年、篠田さんは「十勝空旅舎」という名で独立。これまでの経験を生かし、観光用熱気球のフライト体験を提供する事業をスタートさせました。自然豊かな十勝の空を舞台に、早朝の澄んだ空気の中での飛行や、前泊施設「the 気球 BASE」での宿泊体験を通じ、特別な観光体験を提供してくそう。「あなただけの空物語」をテーマに、これからの観光に新たな価値を創造していく篠田さんの挑戦は、今始まったばかりです。
環境への取り組み!エア・ウォーターが描く未来
エア・ウォーターは、家畜の糞尿を発酵させて得られるバイオガスを液化し、「液化バイオメタン」として活用する事業を推進しています。今回使用された液化バイオメタンも、十勝の酪農家から提供されたバイオガスを帯広市のプラントで精製したものだそう。
液化バイオメタンの純度は99.9%以上で、プロパンガスやLNGと比較すると環境に優しいエネルギー。実験ではプロパンガスとの混合が必要でしたが、今後技術が進むことで、液化バイオメタンのみでの熱気球フライトも夢ではありません。
さらに、エア・ウォーターは液化バイオメタンを熱気球の燃料として使うだけでなく、ロケット燃料としても活用するプロジェクトを進めています。地球温暖化を抑えるための取り組みとして、メタンガスをロケット燃料に転用することは、宇宙開発においても重要な技術です。
風を読み、地球に優しい空を飛ぶ
篠田博行さんとエア・ウォーターの取り組みは、環境に優しいエネルギー利用と観光産業の新たな可能性を切り開くもの。十勝という豊かな自然を舞台に、地産地消のエネルギーを活用し、持続可能な社会を目指すこの挑戦は、地域の未来と世界に大きな影響を与えるでしょう。
「風を読み、地球に優しい空を飛ぶ」という篠田さんの挑戦とエア・ウォーターの技術革新。このコラボレーションが、十勝の空を舞台に、未来を切り開く力強い一歩を踏み出しています。