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とかち・イノベーション・プログラム2025(TIP11)最終発表会!9つの事業構想が集結“やりたい”を起点に十勝の未来を描く

内なる“やりたい”=“Wants”が形になった一日。11月28日、十勝から起業家を生み出す伴走型プログラム「とかち・イノベーション・プログラム2025(TIP11)」の最終発表会「事業構想発表セッション」が開かれ、48人の参加者が5カ月かけて磨いた9件の事業構想を、経営者や投資家の前でぶつけました。自分の人生から生まれたプランが、十勝の新しい未来像を鮮やかに映し出しました。本記事では、9つの事業構想や帯広市長の講評などを完全レポートします。

9つの事業構想が一堂に集結

帯広信用金庫が主催する「とかち・イノベーション・プログラム(TIP)」は、十勝で新事業を生み出すことを目的に2015年にスタートし、これまでに80件の事業構想と24社の法人を生み出してきました。11期目となるTIP11では、参加者の内側にある“ウォンツ”を出発点に、5カ月かけて9つの事業構想が磨かれました。

最終発表会「事業構想発表セッション」の冒頭では、帯広信金の中田真光理事長が「ゼロから0.5を形にする大きなエネルギーに敬意を表したい」とあいさつ。プログラム開発を担う野村総合研究所の齊藤義明さんも、累計1000人を超える挑戦者が育んできた起業家コミュニティの広がりに触れました。

十勝を元気にさせる事業に期待

当日は、〆の味噌汁文化を提案する「ICHIJU」、空き家を挑戦の場に変える「宿借商店」、プロと子どもをつなぐ「いたずらアート」、世界最北の国産アーモンド産地をめざすプロジェクトなど、多彩なプランが次々と披露されました。いずれも社会課題ではなく、挑戦者の人生や原体験から生まれた等身大の構想

講評に立った米沢則寿帯広市長は「実現すれば十勝は今よりさらに元気で豊かな地域になる」と期待を寄せ、「ここからが本当のスタートです。事業化への道のりを私たちも全力で伴走したい」とエールを送りました。9チームは今後、支援機関と連携しながら検証とブラッシュアップを重ね、構想の事業化と地域実装に踏み出していきます。

とかち・イノベーション・プログラム(TIP)とは

とかち・イノベーション・プログラム(TIP)とは、十勝での新事業創造を目指す参加者が、約5ヶ月間に渡って10-12回(1回/3〜4時間)のセッション(プログラム)を通して「仲間」を見つけ出し、事業プラン発表までを支援するプログラム。2024年の第10期(TIP10)までに事業構想は80件、そのうち24の会社が立ち上がっています。

主催:帯広信用金庫
共催:十勝19市町村
協力:株式会社日本政策金融公庫帯広支店、株式会社商工組合中央金庫帯広支店、帯広商工会議所、一般社団法人中小企業家同友会とかち支部、公益財団法人とかち財団、信金中央金庫、株式会社野村総合研究所
協賛:松井利夫(株式会社アルプス技研 創業者 最高顧問)、敷島製パン株式会社、フジッコ株式会社、カルビー株式会社、サッポロビール株式会社北海道本部、富士通Japan株式会社、アース環境サービス株式会社札幌支店帯広出張所

TIP11「事業構想発表セッション」レポート

11月28日、十勝から起業家を生み出すための伴走型プログラム「とかち・イノベーション・プログラム2025(TIP11)」の最終発表会「事業化支援セッション」が開かれました。

今年で11期目を迎えたTIP11では、9つの事業構想が誕生。48名の参加者たちは約5ヶ月にわたりアイデアを磨き続け、その成果を経営者や投資家の前で披露しました。

社会のニーズではなく、参加者自身の内側にある「やりたい」を起点につくられた事業案。挑戦者それぞれの背景や価値観がにじむストーリーでした。「自分の人生から生まれた、世界に一つだけの事業構想」が、産みの苦しみを経て花開くセッションの模様をレポートします。

【挨拶】帯広信用金庫 中田真光理事長

冒頭、主催者を代表して登壇した帯広信用金庫の中田真光理事長は、「2015年にスタートした『とかち・イノベーション・プログラム』は、地域に新たな事業の芽を生み出す取り組みとして今年で11年目を迎えました」と歩みを紹介しました。

そのうえで、参加者がこの日までに積み重ねてきた議論や挑戦に触れ、「0から0.5を形にするのは大きなエネルギーが必要だったはずです。仲間とともにここまで到達した経験は、皆さんにとって大きな財産になるでしょう」と激励。「今日は集大成の舞台です。限られた7分間に思いを込めて、全力で発信してください」と力強くエールを送りました。

【TIPとは】野村総合研究所 齊藤義明

主催者挨拶の後は、同プログラムを開発し、TIP2025の事務局を担当する野村総合研究所の齊藤義明さんから、改めて「とかち・イノベーション・プログラム」について解説がありました。

齊藤さんは「TIPは、5ヶ月という短期間で参加者の内側にある強い想いを引き出し、それを事業構想へと磨き上げる場です。社会課題ではなく、自分自身のウォンツから出発することで、本気の挑戦が生まれます」と紹介。

その上で「これまで累計1000人以上の挑戦者を輩出し、十勝には互いに高め合う起業家コミュニティが育ってきました。今日もその熱量を存分に感じていただけるはずです」と語りました。

【発表者①】〆の味噌汁

事業名:体に染み渡る一杯をお届け ― ICHIJU ―
チーム名:〆の味噌汁
リーダー:杉山 夏菜さん

トップバッターは「1日の終わりをやさしく〆る“〆の味噌汁文化”を作る」というビジョンを掲げたチームICHIJU。メンバー全員が“食と命を守る仕事”に携わり、日々の中で無理なく健康的な選択ができる社会を目指しています。

帯広市民70名へのアンケートでは、「飲んだ後につい食べすぎて後悔した経験がある」と答えた人が75%にのぼることが判明。さらに十勝は炭水化物の生産が盛んで、冬の運動不足も重なり「十勝型糖尿病」という地域特有の課題があると指摘しました。そこで「ラーメンより体にやさしく、満足感も得られる〆」を模索し、その答えが「味噌汁」だったと語ります。

11月には帯広駅前で味噌汁イベントを開催。本別町のみそと十勝産野菜を使った2種類を提供し、4時間で24名が来場。アンケートでは全員が肯定的な評価で、「ビーツの味噌汁が新しい」「味噌汁とお酒が意外と合う」といった声が寄せられ、味噌汁の新たな可能性を実感したといいます。

“実店舗型の味噌汁スタンド”を開業

今後は帯広駅前での間借り営業からスタート。王道の季節野菜味噌汁に加え、ビーツを使ったポタージュ風味噌汁、しじみをたっぷり使った「オルニチン味噌汁」、竹炭と豚骨で仕上げる「ブラック味噌汁」など独創的なメニューを展開予定です。食材は産直市場や規格外野菜を扱う企業から仕入れ、地域との連携も重視します。

ターゲットは飲み会後の20〜50代女性。その女性に連れられて男性客も訪れることで口コミが広がり、ホテル、駅前の飲食店、北の屋台、イベントなど多様な場所での展開を構想。将来的には“実店舗型の味噌汁スタンド”を開業し、帯広から全国へ“健康的な〆文化”を発信したいと締めくくりました。

【発表者②】宿借商店プロジェクト

事業名:ヤドカリ
チーム名:宿借商店プロジェクト
リーダー:梶野 健人さん

名古屋から十勝・清水町へ移住した梶野さんは、空き家が100件以上あるにも関わらず、不動産会社が存在しないため物件取得に1年以上かかるという現実に直面しました。

「挑戦したくても、最初のドアが開かない」。この課題をきっかけに、移住起業者が低リスクで試せる仕組みとして「宿借商店」を構想します。

若者の約半数が「地方暮らしに興味がある」と言われ、副業・リモートワークを組み合わせて起業を目指す人は増加中。しかし実際の地方では、物件探し・資金調達・人脈形成の壁が大きく、挑戦の芽が育たない状況が続いています。

そこでチームは、元薬局の空き店舗を改修し、1階をチャレンジショップ、2階を宿泊施設に整備。町に滞在しながら1週間「自分の店」を開ける、一体型の環境をつくります。

100の空き家から100の商店をつくりたい

メンバーは、建築と動画制作に精通する梶野さん、SNS発信力に優れた長谷川さん、帯広で飲食店を運営する田畑さんの3名。

売上目標の設定、仕入れ先紹介、SNSプロモーション、地域住民によるスカウト投票など、短期間でも確かな実践経験が積める伴走体制が特徴です。終了後は、物件紹介や資金調達サポート、リノベーション協力など、開業まで一気通貫で支援します。

目指す未来は「卒業生の店が増え、空き家が次々と“挑戦の場”へ生まれ変わる循環」。梶野さんは最後に「100の空き家から100の商店をつくりたい」という大きなビジョンを掲げ、清水町に挑戦が連鎖していく未来を力強く語りました。

【発表者③】アートカチ【art×tokachi】

事業名:プロといたずらアート
チーム名:アートカチ【art×tokachi】
リーダー:白石 歩さん

「正解のない時代に、自分で選び、決めて生きる力を十勝から育てたい」。保育士・助産師・小学校教諭など子育て・教育の現場を経験してきたメンバーが集まり、チーム「アートカチ」が生まれました。

彼女たちが提案するのは、地域で活躍する「本物のプロ」と、子どもの主体的な「いたずら心」をかけ合わせた新しい教育プログラム「プロといたずらアート」です。

非認知能力(創造性・自己効力感・協働性など)を育てる機会が十勝では十分に確保されていない現状があります。そこで農家、八百屋、パン職人、木工職人、消防士など、地域のプロが持つ世界観・素材・技術をそのまま学びに組み込み、子どもの好奇心を出発点にしたアート体験をデザイン。混ぜる・壊す・はみ出す・失敗する。そんな「いたずら」がすべて許容される環境が特徴です。

新得町でスモールスタート

野菜の断面を使ったスタンプアートや、重機タイヤによるダイナミックな作品づくり、食べられないパン作りなど、五感を使う本物の体験を提供。親も一緒に参加し、作品だけでなく過程を褒め合う「ほめほめトーク」を通して、子どもの自己理解が深まり、親も子育ての不安が軽くなるという相乗効果が生まれます。

まずは新得町でスモールスタートし、SNS発信を強化しながら十勝全域への展開を目指します。「子ども・親・プロがつながり、支え合う文化を十勝に育てたい」。そんな想いを込めたプレゼンに、会場から大きな拍手が送られました。

【発表者④】十勝の魅力発信チーム

事業名:本質に、体温を「良いもの」を「選ばれるブランド」に変えるSNS広報支援
チーム名:十勝の魅力発信チーム
リーダー:藤岡 祐太さん

クナウパブリッシングの藤岡さんは「十勝には素晴らしいサービスが多いのに、伝え方次第で埋もれてしまう」と語ります。制作会社で多くの企業と向き合う中で感じた課題を背景に、SNS編集と映像制作を軸に「選ばれるブランド」をつくる事業を立ち上げました。

SNS普及率は9割を超え、企業広報の重要性は増す一方で「自社発信の限界」「外注では温度が伝わらない」といった声が少なくありません。藤岡さんが提供するのは、単なる運用代行ではなく「思いをすくい上げ、温度を乗せる広報支援」。総フォロワー12万人の運用経験と、編集・銀行・映像制作で培った実績が強みです。

新サービス「とかちSNS編集部」では、現地取材で魅力を深掘り、コンセプトを言語化、投稿と分析で精度を高めるという独自プロセスで、企業価値を継続的に磨きます。現場に足を運び、空気感ごと映像に落とし込む姿勢は、オンライン完結型の業者には真似できない武器です。

地域の魅力を「編集」と「発信」で再定義</h3

年間240万円で一貫支援を受けられるほか、広報担当者が基礎から学べる「十勝SNSアカデミー」も開講。地域内でSNS人材を育て、企業を支える循環づくりにも挑戦します。

藤岡さんは最後にこう締めました。「十勝のいいものが、正しく評価され、愛されるブランドになる地域にしたい」地域の魅力を「編集」と「発信」で再定義する、新たな広報支援が十勝から生まれようとしています。

【発表者⑤】TOKACHI ALMOND TERRA

事業名:世界最北のアーモンド産地。十勝から世界へ。
チーム名:TOKACHI ALMOND TERRA
リーダー:真浦 綾子さん

真浦さんらが挑むのは、日本では誰も成功したことのない「国産食用アーモンドの実用化」です。世界のアーモンド市場は拡大を続け、将来は供給不足すら予測される一方で、日本で流通するアーモンドのほぼすべてが輸入に頼っています。国内でも栽培の試みはあるものの、シアン化合物が基準値を超えてしまう課題が解決されず、食用としての流通には一度も到達していません。

真浦さんは、この「未踏領域」こそが未来を変えるチャンスだと考え、十勝を拠点に栽培研究を本格化させました。実験では、特別な管理を行わずとも北国の寒さに耐え、アーモンドが実ることを確認。適切な栽培環境を整えれば、十分な収量が期待できる可能性も見えてきています。

目指すのは、新規就農ではなく 「シアン化合物の出ないアーモンド栽培メソッドの確立とライセンス販売」。5年間の研究でノウハウを体系化し、まず十勝の農家へ、そして全国へと拡大させる構想です。

日本の農業に新しい産業を生み出す!

研究拠点には芽室町の未利用地を確保し、地域の農家や北海道内の大学とも連携。栽培技術が確立できれば特許取得の可能性もあると評価されており、地域一体で挑戦を支える体制づくりが進んでいます。

国内でのライセンス事業が軌道に乗った先には、海外輸出にも挑む計画です。日本の丁寧な栽培技術とブランド力を武器に、世界市場で新たな需要を獲得する未来を描いています。十勝だからこそ突破できる課題を追いかけ、日本の農業に新しい産業を生み出す挑戦が、静かに、しかし力強く動き始めています。

【発表者⑥】十勝グローカルラボ

事業名:世界の入り口を十勝に作る―食のグローカル・コネクター事業―
チーム名:十勝グローカルラボ
リーダー:吉永 菜美香さん

吉永さんは、十勝と世界をつなぐ「入口づくり」に挑んでいます。地域の事業者からよく聞こえてきたのは、輸出の明確な計画より「海外の声を聞いてみたい」「まずは刺激が欲しい」といった潜在的な関心。しかし、そうした思いを行動につなげる機会はこれまで整っていませんでした。「興味はあるけれど、何から始めたらいいのか分からない」。その戸惑いこそ、十勝が変わる余地だと吉永さんは捉えています。

吉永さんは言います。「最初の一歩を生む仕組みがあれば、十勝はもっと世界と響き合えるはずです」。そのためにまず構築するのが、十勝を英語で発信する地域Webカタログです。事業者情報は無料で掲載し、英語記事の作成・海外からの問い合わせ対応・視察やオンライン交流の調整まで、入口から出口まで一貫して伴走します。

具体的な出会いの形として用意しているのが、豆腐をテーマにした視察モデル。大豆の畑から製造所までを巡り、一次産業と加工業が連携する十勝ならではの高付加価値化を体感してもらう内容です。帰国後にはオンラインでフォローアップを行い、継続的な関係づくりへつなげます。

新しい循環が生まれる入り口をつくりたい

ターゲットは二つ。寒冷地農業の共通点を持つ北米の事業者、そして高付加価値化を目指すアジア・オセアニアの一次産業団体。どちらにも十勝の知恵や連携モデルが響く可能性があります。

吉永さんは最後に「十勝と世界が互いに学び合い、新しい循環が生まれる入り口をつくりたい」と締めました。地域から世界へ、そして世界から十勝へ。双方向のつながりを育てる挑戦が始まっています。

【発表者⑦】Tokachi Kids Ride

事業名:ちびっこライダーズパーク
チーム名:Tokachi Kids Ride
リーダー:富田 岳登さん

「十勝に、子どもたちが思い切りバイクを楽しめる場所をつくる」。Tokachi Kids Rideが手がける「ちびっこライダーズパーク」は、その思いを形にした取り組みです。

代表の富田岳登さんは、都内の商業施設で電動キッズバイクの体験イベントを続けてきました。毎回100人以上が集まる人気ぶりで、参加した保護者から「普段はどこで乗れるのですか」と度々尋ねられたと言います。そのたびに、北海道にも十勝にも子どもが安全に走れる常設コースが存在しない現実を痛感し、パーク構想が芽生えました。

電動キッズバイクは時速7kmから設定でき、転倒時にアクセルが自動オフになる安全機能も備えます。操作はシンプルで、初めての子どもでもすぐに乗りこなせるのが魅力です。イベントには毎回のように参加する子もおり、富田さんは「憧れで終わらせず、日常的に乗れる場をつくりたい」と考えるようになりました。

十勝を電動キッズバイクの聖地に!

パークには約800mのオフロードコースと基礎練習エリアを設置し、電動式なので騒音の心配が少なく住宅街近郊でも運営できます。さらに国際A級ライダーによるスクールや、技術を試せるミニコンテストも開き、成功体験を積み重ねられる環境を整えます。

対象は3〜12歳。十勝1市3町(帯広・音更・幕別・芽室)の児童数は約1万1000人で、そのうち習い事をしていない子が25%にのぼるそうです。その中から年間40人、将来的には80人の通年利用を見込んでいます。「十勝を電動キッズバイクの聖地にしたい」と語る富田さん。子どもたちの新しい挑戦と成長の場が、この地から走り出そうとしています。

【発表者⑧】ポテカチ

事業名:他人軸卒業リトリートプログラム
チーム名:ポテカチ
リーダー:三村 直輝さん

チーム「ポテカチ」の三村直輝さんは、かつて親や友人、職場の期待に合わせ続け、ほめ言葉のはずの「いい人だね」が胸に重くのしかかっていたと言います。本音を押し込み続けた結果、心が限界を迎え、引きこもりやニートの時期を経験しました。この原体験が、今回の事業の核になりました。

他人軸とは、自分の行動基準が他者に置かれた状態です。20〜30代の多くが慢性的な疲労を抱える現代において、正解探しや嫌われたくない気持ちが心をすり減らします。モニター参加者からも「耳が聞こえにくくなるほど疲れていた」「家探しも進まない」「休み方が分からない」といった声が集まり、既存のコーチングやリトリートでは変化が起きにくいと感じたそうです。

そこで三村さんは、癒しで終わらせず「再始動」につながるリトリートを設計しました。舞台は中札内村フェーリエンドルフや浦幌町留真温泉など、日常から物理的にも精神的にも離れられる十勝の自然環境です。参加者は自然と食事で心身を整え、焚き火の前で本音に触れ、小さなコミュニティの中で自分の役割や未来像を描きます。

いい人が、いい人で終わらない世界を

「十勝の空気が、心のブレーキをそっと外してくれる」と話す三村さん。600時間以上のコーチング経験を活かして伴走することで、「仕事探しに前向きになれた」「自分の才能に気づけた」など参加者の変化は確かなものになっています。

三村さんは最後にこう語りました。「いい人が、いい人で終わらない世界をつくりたい」。十勝を「リトリートの聖地」にする挑戦が、今まさに動き始めています。

【発表者⑨】非日常発掘チーム

事業名:バウリニューアル ―記念日を更新する体験ギフト―
チーム名:非日常発掘チーム
リーダー:須田 賜生さん

非日常発掘チームの須田賜生さんが提案するのは、夫婦の節目を更新する体験ギフト「バウリニューアル」です。「結婚記念日、毎年どうしよう……」そんな悩みは、意外と多くの家庭に共通しています。ウェディングプランナーとして10年間、予約2年待ちの会場で唯一無二の演出を生み出してきた須田さんは、「日本の記念日はもっと自由でいい」と語ります。

須田さんが作る世界は感情の演出。映画『スター・ウォーズ』をテーマにした入場シーンや、本気のもちつき演出など、夫婦の物語を徹底的に引き出し、唯一の体験へ昇華させてきました。しかし地方では、結婚式の多様化に比べ、記念日の選択肢は驚くほど少ないまま。型にはまった撮影プランだけでは、誓いを更新するには不十分だと感じたと言います。

そこで須田さんは、夫婦の本音をヒアリングし、テーマを見つけるところから記念日を再設計します。「テーマが見つかるまで帰しません」と話すほど、2人らしさを追求。シナリオ通りの予定調和は排除し、当日のサプライズや感情の動きを計算したプランを共創します。さらに次の記念日へ続く仕掛けまで組み込み、年に一度の節目を「夫婦のアップデート」に変えていきます。

日本の記念日は、もっと笑って泣いていい

届けたい相手は「節目だけど、今年も同じでいいのかな」と感じている夫婦。5年目、10年目の記念日など、特別にしたいけれど旅行ほど大げさにはしたくない層に向け、最低10万円から柔軟にアレンジ可能です。

「日本の記念日は、もっと笑って泣いていい」。 十勝から広がる新たな文化が、夫婦の時間をやさしく更新していきます。

【講評】帯広市長 米沢則寿

9つの事業構想を講評「十勝帯広をより良い地域へと前に」

米沢市長は「今回の事業構想が実現すると、十勝は今よりさらに元気で、豊かに暮らせる地域になると強く感じました」と述べたうえで、各チームに総評を伝えました。

【体に染み渡る一杯をお届け ― ICHIJU ―】

地域の食材を生かした「〆の味噌汁」という発想は、十勝の食の魅力を身近に感じられる温かな取り組みだと感じました。飲食店での提供経験を生かしながら、新しい〆文化をつくろうとする探求心も印象的です。日常の終わりに寄り添う一杯として、多くの人に愛される存在になることを期待しています。

【ヤドカリ】

空き家を活用し、挑戦者に住まいと店舗を同時に提供する発想がとても魅力的でした。物件を貸すだけでなく、開業まで寄り添い伴走する姿勢は、新たな一歩を踏み出す人にとって大きな安心になります。清水町から始まる取り組みが、十勝全体へと広がっていく未来が楽しみです。

【プロといたずらアート】

地域で活躍する専門家を講師に招き、子どもたちへアート教育を届ける構想に温かさを感じました。子どもだけでなく、子育て中の保護者の孤独や不安にも寄り添う視点が素晴らしく、帯広がさらに子育てに優しい地域へ変化していく可能性が伝わってきました。この活動が息長く広がっていくことを願っています。

【本質に、体温を「良いもの」を「選ばれるブランド」に変えるSNS広報支援】

企業が抱える広報の課題に寄り添い、SNSを通じて魅力を引き出す姿勢が印象的でした。単なる代行ではなく、企業と共に目を引く発信を考える点に力強さを感じます。この取り組みが企業の発信力を高め、人材確保や評価向上へつながっていく道筋が見えてくるようでした。

【世界最北のアーモンド産地。十勝から世界へ。】

アーモンドの販売ではなく、国内で確立されていない栽培ノウハウを提供するという着眼点が大変興味深く感じられました。時間を要する挑戦ではありますが、十勝の開拓者精神を体現する取り組みとして大きな可能性があります。事業化が実現すれば、国産アーモンド市場が十勝から広がっていく未来を期待しています。

【世界の入り口を十勝に作る―食のグローカル・コネクター事業―】

生産者や加工業者と海外の食品関係者をつなぎ、互いに学び合う関係を築こうとする視点がとても新鮮でした。既存の支援機関では届きにくい領域へ一歩踏み込む意欲的な取り組みであり、主宰者の豊富な海外経験が力を発揮する分野だと感じます。交流が深まることで十勝の食が世界へ広がる可能性に胸が膨らみました。

【ちびっこライダーズパーク】

子供専用の電動バイクコースを整備し、遊びながら心と体を育む習い事として展開する構想が印象的でした。バイクは危ないものではなく「かっこいい」と捉える主宰者の思いが、今日の発表から強く伝わってきました。検討段階では多くの試行錯誤があったと聞きますが、今後は着実に事業を進め、やがて全国へ電動キッズバイクが広がっていく未来を期待しています。

【他人軸卒業リトリートプログラム】

他人の評価に左右されず、本来の自分を取り戻すためのリトリートを提供する構想は、現代社会において多くの共感を生むと感じました。豊富なコーチング経験を持つ主宰者が、十勝の自然や食を生かして独自性のあるプログラムへと磨き上げていく姿を期待しています。自分らしさを取り戻すきっかけを与える価値ある取り組みだと思いました。

【バウリニューアル ―記念日を更新する体験ギフト―】

長年連れ添う夫婦にとって、記念日の準備は照れや迷いも多く、思わず胸に刺さる発表でした。自分一人では形にしにくい想いを相談しながら形にしてくれる点に、大きなニーズがあると感じます。十勝の夫婦がより仲良く、関係を深めるきっかけになる温かい事業として広がっていくことを期待しています。

発表までたどり着いたことに価値がある


最後に米沢市長は、これまでのセッションを振り返りながら、参加者に向けて温かい言葉を贈りました。

構想づくりの過程では、迷いや困難に直面した場面も多かったはずだが「チームとして支え合いながら乗り越え、本日の発表までたどり着いたことに大きな価値がある」と称えました。

そのうえで「ここからが本当のスタートです。事業化に向けて歩む道は決して平坦ではありませんが、私たちも全力で伴走します。ぜひ皆さんの力で、十勝帯広をより良い地域へと前に進めていきましょう」と呼びかけ、会場にエールを送って締めくくりました。

TIP11期の9チームは、主催である帯広信用金庫をはじめ、十勝19市町村、野村総合研究所、とかち財団など多くの支援機関の力を借りながら、ここから本格的に事業化へ踏み出していきます。これまでに80件の事業が生まれ、24の法人が誕生してきましたが、今回の取り組みはその歩みをさらに前へ進める力になるはずです。

今後、各チームの構想がどこまで広がり、十勝にどのような新しい価値やイノベーションをもたらしていくのか、大いに期待しています。9チームそれぞれの挑戦が、地域の未来をより豊かにしてくれることを願っています。

過去のTIP最終発表

とかち・イノベーション・プログラム2024(TIP10)「事業構想発表セッション」レポート

とかち・イノベーション・プログラム2023(TIP9)「事業構想発表セッション」レポート

とかち・イノベーション・プログラム2022(TIP8)「事業構想発表セッション」レポート

とかち・イノベーション・プログラム2021(TIP7)「事業構想発表セッション」レポート

とかち・イノベーション・プログラム2020(TIP6)「事業構想発表セッション」レポート

とかち・イノベーション・プログラム2019(TIP5)「事業構想発表セッション」レポート

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北川 宏

北川 宏

SUMAHIRO 編集長

記者12年→編集者8年→広報→起業|2022年7月『圧倒的におもしろいメディアが地方を救う』を掲るメディア会社 株式会社スマヒロの代表。新聞・経済誌の記者、雑誌編集者(日本)、週刊誌(海外)編集長、広報を経て2022年夏に起業。北海道十勝出身。東京13年→バンコク7年→北海道。

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