冷たく、 なめらかな食感とともに口の中でじわりととろけるフレーク。そしてゆっくりと広がる、牛肉の濃厚な旨み。
今やお取り寄せグルメの新定番として人気を集める十勝スロウフードの「牛とろフレーク」は、この特別な味わいが魅力です。
この独特のとろける食感を生み出しているのが、生ハムと同じ加工方法で仕上げる「非加熱製法」です。加熱をしないこの製法によって、牛とろフレークならではの、限りなく生に近い味わいが実現しました。
「自分で育てた牛を、どうすればいちばん美味しく食べられるのか」
その率直な思いから、牛とろフレークの物語は始まりました。
けれども、この「とろける牛肉」が誕生するまでには、命と真摯に向き合った人々による、長く険しい挑戦の道のりがあったのです。
一頭の牛の死が変えた、牧場の未来
崩れた肝臓という現実

物語のはじまりは、北海道のある牧場でした。当時、その牧場では乳牛を育て、牛乳を出荷する一般的な酪農が営まれていました。
ある日のこと。牧場で元気に草を食んでいたはずの牛が、突然、力尽きて横たわっていました。病気の兆候もなく、昨日までいつも通りだった牛が、どうして――。
牧場主は信じられない思いで、原因を確かめるためにその牛の体を開きました。そして目にした光景に、息をのみます。
肝臓が、まるで豆腐のように崩れていたのです。
「自分がやってきたことは、間違っていたのかもしれない」
肝臓とは本来、張りや弾力がある臓器です。内臓が損傷するほど、知らぬ間に牛の身体に負担をかけていた――その事実に、牧場主は深く打ちのめされました。同時に、その痛みが新しい決意を生んだのです。
当時は「効率」が重視される時代でした。酪農家の場合、一頭の牛からどれだけ多くの牛乳を搾れるかが重視され、経済動物である牛の命やその生育環境よりも、生産性が最優先されていました。
「牛の命をないがしろにして、経済性を優先していいはずがない」
そう確信した牧場主は、牛の命と正面から向き合うことを決意したのです。
一冊の本との出会いが生んだ「ボーンフリーファーム」

その後、牛が本当に幸せに生きられる環境を模索し、肉牛農家として再出発した牧場主は、ある一冊の本と出会います。
1960年に出版されたジョイ・アダムソン著『野生のエルザ』。その原題『Born Free』には、「すべての命は、生まれながらにして自由である」という意味が込められています。
牧場主はこの言葉に深く心を動かされ、自らの牧場を「ボーンフリーファーム」と名付けました。
牛たちができるだけ自然に近い形で過ごせるよう、牧草地を整備し、飼料も自家生産に切り替え、微生物や炭を与えて腸内環境を整える工夫を重ねました。牛たちは自由に動き、好きなときに牧草を食べられる――そんな「自由な環境」を実現していったのです。
しかし当時、「家畜に自由を与える」という考え方は一般的ではありませんでした。むしろ異端と言えるでしょう。また、肉牛の生育方針から農協を経由せず個人で肉を販売することにしたものの、販路もなく、経営は赤字続きでした。
それでも牧場主は諦めませんでした。
「のびのびと、健康で幸せに育った牛(生命体)をいただく。おいしさはもちろん、それが自然で理にかなっている」
そう信じ、何年もかけて牧場環境を整え続けました。地道な努力が実を結び、やがて肉質は見違えるほど良くなっていったのです。
しかし、新たな課題が待っていました。
確かに牛肉は格段においしくなった。けれども、サーロインやヒレのような高級部位は売れても、モモやバラなどの一般的な部位は市場にあふれ、買い手がつかない。
「牛と向き合い、丁寧に育てても、売れ残ってしまえば、その命は活かされない。それは本当に、命を大事にしていると言えるのだろうか」
その問いが、やがて「牛とろ」誕生へとつながる、次の挑戦の始まりでした。
(後編へ続く)
