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高橋まんじゅう屋(愛称 たかまん)のチーズおやき物語

創業昭和29年(1954年)「たかまん」の愛称で親しまれる高橋まんじゅう屋のチーズおやき(大判焼)が、帯広市民に愛され続ける理由を取材しました。冒頭から「すべては通い続けてくれるお客さんがいるから」と感謝の言葉からはじまった店主・高橋道明さんと妻・美哉(みや)さん。今回、お二人に“たかまん”の歴史とおいしさの秘密、そして、語り継げられる“たかまん”都市伝説を聞いちゃいました。

昭和29年の創業時はアイス屋(冷菓店)でした

十勝あずきの「あん」と甘い生地にあわせた“たかまん”専用の「チーズ」がたっぷりはいった「大判焼(おやき)」は、十勝・帯広に住む人達にとっては欠かせない味のひとつ。ご存知、たかまんの愛称で親しまれる高橋まんじゅう屋。今では地元民のみならず、多くの観光客が代名詞のチーズおやき(大判焼)、肉まん、むしパンを求めて列をなします。

春休みで訪れた20代の学生は「高校までたかまん近くの柏葉高校に通っていて、週3回は食べていました。大学で上京し、春休みで帰ってきたので食べに来たんです。こんなに伸びるチーズはたかまんだけ。焼き立てが美味しいので、東京に持って帰れないのが残念です」

また、夕方に並んでいた女性は「これから子どもを迎えに行くんですが、夕飯前に我慢できない子どもと私のために買いに行きました」と笑いながら話し、スーツ姿の男性は「営業帰りに寄りました。たかまんを買って帰ると職場の部下から喜ばれるので買いに来ました」と明かします。

他にも、札幌や東京から観光で訪れた人たちもいて、駐車場はレンタカーと地元ナンバーの半々でした。

閑話休題。高橋まんじゅう屋の歴史から紐解いていきましょう。

高橋まんじゅう屋が誕生したのは今から70年ほど前。創業したのは道明さんの祖父・幸造(こうぞう)さんと祖母・ヒサノさんでした。そして、創業から10年後に道明さんの父・修さんと母・睦子さんに引き継がれます。

祖父母は太平洋戦争が終わり満州から引き上げ、十勝・清水町でせんべい屋を開きます。その後、人口の多い帯広市(現在の場所)に移転。当時、繁華街だった電信通商店街に今の店を構えました。それが昭和29年(1954年)です。店内に当時のメニュー版がありますよ。当時の屋号は高橋冷菓店で、主力商品はアイスキャンディーで喫茶店として構えていました」と道明さんは語ります。

昭和29年(1954年)4月にオープンした高橋冷菓店ですが、すぐに苦境に陥ったそう。

「主力のアイスキャンディーが功を奏して夏場は順調でしが、冬場には売れなくなります。そこで、祖父はおやき(大判焼)をはじめたそうです。当時、おやき屋は町内に1軒あるほど人気商品でしたので、珍しさよりも皆がやっていたから売れたのだと思いますよ。業態転換を図るスピード感は祖父の力ですね」(道明さん)

新屋号「高橋まんじゅう屋(たかまん)」に変わった理由は……。

おやきを売りながらもアイスキャンデーの製造・販売を続けていましたが、転機は2代目の修さん(道明さんの父)」に代替わりして、すぐに訪れます。

僕が小学生の頃に父が祖父から店を引き継ぎました。それと同時にアイスキャンディーを製造するための衛生基準が上がって、個人商店である高橋冷菓店では設備投資ができず『安全を保証できないのであれば辞めよう』と父が決断。おやき専門店に業態転換を図ったんです。当時、おやきは大判まんじゅうと呼ばれていたこともあり、屋号を現在の『高橋まんじゅう屋』に変更。おやきだけでは商品が足りないということで、肉まん、あんまん、むしパンといった新商品を出していきました」(道明さん)

名物チーズおやきは牛乳廃棄をなくすために誕生

第二創業として誕生した高橋まんじゅう屋。気になるのが、現在の名物「チーズおやき」がいつ生まれたのか。

誕生秘話について道明さんはこう語ります。

チーズおやき(大判焼)を開発したのは父(修さん)です。今から35年ほど前ですね。当時、計画よりも牛乳の生産量が増え過ぎて、牛乳の大量廃棄が社会問題となっていました。それを見かねた父が『十勝のためになる商品を』と生乳を使用するチーズ(十勝産)をおやきに入れようと開発したのがはじまりです。チーズを入れたおやきは、全国的にも珍しく、どんどん売れていきました。クリームやチョコといった甘いおやきが多かった中で、塩みのきいたチーズは老若男女から好かれました」

しかも、当時はあんのおやきが1日500個ほど売れていました。チーズ入りは半分の250個売れれば成功という目算が大外れ。あんと同じ個数が売れてしまい、それまでの倍の1日1000個になるという嬉しい誤算になったそう。

チーズおやきは、その後も人気は衰えず、たかまんの代名詞に成長。今ではあんとチーズで1日1000〜2000個を作ることもあるほど。

背景には、長年愛され続けたことが関係します。たかまんのおやきを食べて育った子どもたちが帯広を巣立つことで、地元の美味しさを伝承。全道、全国に広まることで、チーズおやきを求めて観光客が増え、取材も殺到します。まさに嬉しい誤算の連鎖です。

クリームがない理由は○○だったから

繁盛店となり毎日が忙しい高橋まんじゅう屋。そんな中、道明さんが3代目として店に入ります。道明さんは30歳。今から約30年前ほど遡ります。

「当時、店は目の回る忙しさでした。とにかく父の仕事を見て、見よう見まねで覚えました。10年くらい経った頃に3代目を受け継ぎ、父が引退していきました。今でも味を変えずに守り続けています。チーズも特注のまま。十勝産の小豆も欠かせません。すべては祖父から受け継がれている『十勝のため』という想いだけです。全国的に普及しているクリームがないのは、大判焼用のクリームには添加物が入ってしまうから作りませんでした。高橋まんじゅう屋は家族が納得のいく食材を使った安全な商品しか出しません。それをずっと受け継いできましたから」(道明さん)

祖父母からタスキを託された父・修さんと母・睦子さんについて、道明さんはこう回想します。

父の味覚は異次元でした。商品に含まれる少ない材料までも言い当てるほどです。母は商売の達人でお客さんを覚えるのは当然、駆け引きもでき、金額計算も暗算で速い、包装も手際よく、お客さんの回転を上げたのは母のおかげで、そのノウハウを妻の美哉が受け継ぎ、今につながります」(同)

変わらないのは味だけではなく、初代から続く十勝(地元)への想いでした。

創業から約70年という歴史について、道明さんは「初代の頃は、町内に1軒あった大判焼屋も今ではほとんど残っていません。残ったのが高橋まんじゅう屋というだけです」と謙虚に話します。

また、一緒に店先に立つ妻の美哉さんは「どんなに有名になっても、毎日買いに来るお客さん、学校帰りに寄ってくれる子どもたち、里帰りの際に買いに来る昔の常連さん。私達は、買いに来るすべてのお客様に、おやきを作り続けているだけです。高橋まんじゅう屋の味が、思い出となって心に残ってくれていることが原動力ですよ」と嬉しそうに語ります。

たかまん都市伝説「宝くじ当選」はほんと?

帯広で高橋まんじゅう屋(たかまん)を知らない人は少ないでしょう。それだけ有名店になれば、都市伝説のような噂も広がります。その一つが「たかまんが宝くじに当選して店舗を建て替えた」でした。

道明さんに聞くと、少し笑いながら「それは別のおやき屋さんの話しなんです。残念ながら当たったおやき屋さんはもうなくなっちゃいましたけど。おやき屋として残っていたのが当店くらいだったので、噂になったのでしょう。当店の店舗は30年前に隣の建具屋さんが廃業したので増築。12年前に老朽化(約築百年)のために建て替えました。建て替えて5ヶ月後に東日本大震災があり、建築屋さんが言うには『古いままだと倒壊していた』可能性もあったそうです」と教えてくれました。

3代目として30年。次の世代は?

3代目となった“たかまん”は、道明さんよりも5年ほど早く店に入った、弟の幸司さんが仕込みを担当。焼きは道明さん、販売全般は奥様の美哉さんという三人三分割の体制。

誰か一人欠けても“たかまん”はダメなんです。6年前に妻が入院、一昨年は私が入院してしまうことで、二週間ほど休みを余儀なくされました」と還暦を迎えた道明さんが語るとおり、消費者としては4代目のことが気になります。

実は、一緒に切り盛りする弟の幸司さんの息子さんが20歳ということで、可能性はあるそうですが、無理強いはしないとのこと。

「おやきを商売にするって大変なんです。弟が仕込み、私が焼き、妻が販売と3人で切り盛りしてきましたが、儲かるわけでもありません。私も30歳の頃に店に入りましたから可能性は無きにしもあらずですよね」(道明さん)

最後に「なぜ多店舗展開やネット販売をしないのか」と伺うと「自分たちの目の届かない多店舗展開はしません。味や安全性を保証できないネット販売もしません。今のままで、毎日来てくださるお客さんたちのために作り続けるだけです」と道明さん。

最後まで、道明さんはおやきを作りながら、背中ごしに高橋まんじゅう屋とは何たるやかを淡々と語ってくれました。

たかまんのおやきは、帯広・十勝の食文化を語る上で外せないメニューです。

今日も“たかまん”買いに行きませんか?

【INFORMATION】

■高橋まんじゅう屋
住所:北海道帯広市東一条南5-19-4
電話:0155-23-1421
定休日:毎週水曜日と第二第三火曜日
駐車場:あり


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北川 宏

北川 宏

SUMAHIRO 編集長

記者12年→編集者8年→広報→起業|2022年7月『圧倒的におもしろいメディアが地方を救う』を掲るメディア会社 株式会社スマヒロの代表。新聞・経済誌の記者、雑誌編集者(日本)、週刊誌(海外)編集長、広報を経て2022年夏に起業。北海道十勝出身。東京13年→バンコク7年→北海道。

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