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79歳、未完成の夢を追いかけて ― ランチョ・エルパソ創業者・平林英明インタビュー ―

「どろぶた」と呼ばれる自社育成の放牧豚でおなじみ、帯広市の老舗レストラン「ランチョ・エルパソ」。創業者の平林英明さんは1945年生まれの御年79歳。「飽きっぽいけれど、生み出すアイデアは次々に湧いてくる」と自らの性格を語る平林さん。実は、十勝のコミュニティを盛り上げてきたレジェンドとしても知られ、ソーセージ・生ハムなどの食肉加工、地ビールなど多岐にわたる事業を切り盛りし、手がけたイベントも多数。平林さんが未来に向けて蒔いたタネが今、北の大地で着々と花を咲かせています。スペイン語で「峠」を意味するエルパソですが、平林さんが歩んできた“エルパソな人生”とはーーー。

新たなエルパソの旗手・松葉孝浩社長のインタビューは以下

アメリカとの出会いがレストランの原点に

帯広で知らない人はいない「ランチョ・エルパソ」。店先に立つと、懐古的な気持ちを抱かずにはいられないというファンも少なくないでしょう。編集子も、出身者として幼い頃から家族で通い、そして友達との大切な時間を費やした尊い場所。

そんな、半世紀以上にわたり帯広市民の胃袋を満たしてきた同店は、「自分たちが楽しめる場所をつくろう」と平林さんが仲間とともに牛小屋を改造して創り上げた言うなれば“ユートピア”。その熱き情熱の名残と歴史が混じり合って、店内にはなんとも言えない温もりが溢れているんです。

地元の高校卒業後、航空自衛隊に入隊した平林さん。その後、国際農友会の農業実習生として渡米。この渡米がエルパソを生み出すきっかけに……。「アメリカの食文化に衝撃を受けたんです!」と当時を語る平林さんの語気が強まるほどだったそう。

「当時のアメリカにはすでに、マクドナルドやシェーキーズといったファストフード店がひしめいていました。見たことも、食べたこともないメニューが次から次へと出てくる。そのエネルギッシュな光景に、ただただ圧倒されましたね」

アメリカの食文化に完全に魅せられたという平林さんは「自分で店をやってみたい」と一念発起。帰国後の1971年、帯広市街地にハンバーガーショップ「タイム」を開店させます。カウンター席だけのこぢんまりとした店構えだったにもかかわらず、当時の帯広にはなかったハンバーガーの味が若者たちを中心に衝撃を与え、たちまち街の人気店に仲間入り。73年には店の向かいに「レストラン喫茶エルパソ」も開店し、一歩を歩み始めることにーーー。

「店名はアメリカ南部、メキシコと国境を接するテキサス州のエルパソからとりました。西部劇好きだったのと、アメリカでの経験に大きく影響を受けたので。ただ、すべて真似するだけじゃ面白くないし、メニューは日本人の口に合うように工夫しました。焼き飯スペシャル、フランクフルトスペシャル(今でいうナポリタンスペシャル)なんてのも、当時は珍しかったと思いますよ」

若者が集うコミュニティへ。「イカダ下り」もエルパソから始まった

こうして誕生したエルパソですが、話題のレストランだけに留まることはありませんでした。連日、若者たちが集い、ともに楽しみ、ときには何かを企んで実行する、そんなコミュニティの拠点として、帯広の街とともに発展していったのです。

「キャンプの帰りに、十勝川でイカダをつくって下ってみようか、なんてアイデアが生まれました。それが現在でも続く十勝の風物詩『十勝川イカダ下り』の原点です。面白がる仲間が次々に集まってくる場所。それがエルパソだったんです。当時は、街なかで大勢が一堂に会して何かをするという文化が今ほど根付いていなかった時代。それでもエルパソには『楽しそうだから一緒にやろう』と熱量高いメンバーが集い、イベントや催し物を企画し、実行しちゃう人たちのたまり場となっていきました」

今ではすっかり冬の北海道を代表する「しかりべつ湖コタン」も、同様の発想から始まったのだとか。楽しい会話と食事で盛り上がるうちに、「雪と氷の世界で何かやろう」という声が上がったのだといいます。こうしたフットワークの軽さと素直な“いいね”の共有こそが、エルパソの原動力でした。

緑ヶ丘公園に“世界一長いベンチ”を!

エルパソが発信する自由なアイデアは、帯広の街づくりにも大きな影響を及ぼします。市民の憩いの場でもある緑ヶ丘公園に隣接する「グリーンパーク」もその一つ。当時は住宅地や団地として利用する案もあったものの、平林さんらは「後世に残り、ずっと価値を生み出す場所を作ろう」と提案。そのときのアイデアから生まれたのが、全長400mもの長さを誇る世界一(当時)長いベンチです。

「業者頼みではなく、市民の手で作ろうと考えました。そのほうがみんなの思い出になるし、ずっと語り継がれるだろうと。1981年の完成後にはギネスブックにも登録されましたが1000人以上が座って記念撮影をしたときは、なんだか信じられない光景でしたね」

大勢の市民が自発的に集まり、「こんなの絶対に面白い」と笑い合いながら手作業で作り上げる。それは、平林さんたちがエルパソで育んだ“コミュニティの力”を象徴しています。

「当時は必死にお金を稼ごうというより、いかに時間を楽しむかを誰もが大事にしている時代だったと思います。競争相手が少なかったのもあると思いますが、楽しいことを企画すれば“いいね”と言っていろんな人が寄ってきてくれる。それだけで物事が動くんですよ。スマホひとつで何でも片付くSNS時代の現代とはやはり結束力が格段に違いますよね」

一方で、社会人経験の乏しい若者らによる企画・挑戦だったことから失敗も数知れず……。けれども平林さんは「自分たちが面白いと思うことをやる」というスタンスだけは決して崩さなかったといいます。その姿勢に魅了された後輩たちがあとへ続き、いつしか街の風物詩へと成長を遂げていったのです。

「僕はもともと“続ける力”よりも“生み出す力”のほうが強いタイプなんです。アイデアを思いついて形にするまでは突っ走るけど、飽きるのも早い(笑)。でも、やり始めたイベントが今でも続いているのは、そこに価値を感じてくれる人たちが受け継いでくれたからですね」

荒んだ牛小屋を改装して「ランチョ・エルパソ」をオープン

やがて、街なかの「レストラン喫茶エルパソ」も手狭になり、より自由に過ごせる場所を求めて平林さんの父が所有する農地跡地(現在の帯広市西16条南6丁目)の牛小屋を改装することに。これこそが現在の「ランチョ・エルパソ」の原点となりました。当初は喫茶と2店舗を運営していましたが、最終的には現在の場所に移転し今に至ります。

エルパソの根幹 独自性と未来性

レストランから街づくりへと多方面に活躍する平林さんですが、その原点には自身が大切にしている2つのモットーがあるそう。それが「独自性」と「未来性」。

「アメリカで衝撃を受けたハンバーガーを日本風にアレンジしたり、市民総出で長いベンチを作り上げるなど、常に「どこにもないものを生み出したい」という強い思いがありました。さらに「それがいつか次の時代につながれば」という希望も重なり、新しい挑戦に迷わず踏み出してきたのではないでしょうか。

料理にしても、イベントにしても、真似するだけじゃ面白くない。なにか“自分たちならでは”のエッセンスを入れて初めて独自性が出ます。それが成功すれば未来に受け継がれていくだろう、と。結果を見込んで動くんじゃなく、とりあえず行動してみる。この2つの考え方が、僕がやってきたこと全部の土台なんです」

レストラン経営も“牧場経営も面白くしよう”と考えるのも、突拍子もないイベントを始めるのも、独自性と未来性を大事にしているからこそ。エルパソを訪れる人々がそこに共感し、「自分たちもなにかやってみよう」と背中を押されるのは、まさに平林さんの原点に通じるものがあるのでしょう。

こだわりのソーセージと放牧養豚が新たなエルパソの顔に

ランチョ・エルパソが軌道に乗りはじめると、平林さんの “エネルギー”は食材へのこだわりへと注がれていきます。渡米経験からソーセージの魅力に目覚め、自らソーセージ工場を立ち上げたほか、養豚業にも乗り出します。エルパソ牧場では広大な土地を生かした放牧により、オリジナルブランドの「どろぶた」を確立。さらにソーセージの本場・ドイツへ何度も足を運び、希少種の「シュベービッシュ・ハル豚」を日本初の品種を生体で導入。いつの日か有機養豚としてさらに品質を高めたいと夢を語ります。

「本気でソーセージを作りたいと考えだしたら、原料にたどり着いたんです。どこの牧場の豚肉かわからないものを仕入れるんじゃダメ。じゃあ自分で育てよう、それも放牧でと……。あれこれ試行錯誤してきた結果が、いまのエルパソ牧場です。まだ未完成ですが、そこがまた面白いんですよ」

今年80歳の大台。それでもまだ夢半ば、未完成を愉しんでいたい

現在は株式会社エルパソの会長職に就任し、現場のタスキを次世代にパトンタッチ。しかし2025年で80歳を迎える今も、平林さんの“次々にやりたくなる性格”は衰えを知りません。むしろ肩の荷が下りて余裕ができたからこそ、新しいアイデアが湧いてきて仕方がない、と微笑みます。

「昭和40年代、皆でイカダをつくって川下りをやろうとしたあの頃に、ちょっと戻ったような気持ちです。ただ、今は“いいね”と言って本気で協力してくれる人が少ないのかもしれない。でも、それならそれで、また新しいやり方を考えればいいのかなと」

少し冗談めかしながらも、胸の奥に燃えるクリエイティブな衝動が宿らせる平林さん。エルパソが歩んだ50年以上の歴史には、何度も新しいことをはじめては、受け継がれ、また新たな芽を出すという連鎖があります。その連鎖をいとおしみ、時にはさらなる刺激を求めて再び海を渡ろうとする行動力こそが、平林さんの本質なのかもしれません。

「これからも僕は、できるかどうかわからないことでも『面白そうだ』って先に言っちゃう。で、どうにかこうにか実現させる。飽きるまでやったら、あとは残ってくれる人が続けてくれる。自分たちが本当に楽しめることを創り出し、それを惜しげもなく周囲に解放してきたからこそ、エルパソには今も多くの人々が集うんです」

インタビューの終わりに、平林さんは静かにこう話します。

「いつまでも未完成でいいんです。そこに未来があるから。どうせまた新しいことを思いついて、うずうずしてくるでしょう。そういうものを形にして、みんなで笑い合う。それがエルパソなんだと思います」

平林さんのランチョ・エルパソは、かつて若者たちが胸を弾ませながら新しい何かを生み出そうとした熱気が宿る場所。その余韻を感じながら、新しいエルパソははじまったばかり。

「あとは松葉(現社長)がやってくれるでしょう。楽しみにしていてください」

そう、笑いながら託す言葉からは愛情が溢れていました。エルパソからはじまる無数の“面白いこと”。それは、まずは無数の“おいしい”からはじまり、そして、まだ見ぬ面白いに変わっていくのかもしれません。いつか再び芽を吹き出す──そんな予感を抱かずにはいられない場所。それがエルパソなんです。

【プロフィール】

平林 英明 |ひらばやし ひであき

1945年、帯広市出身。航空自衛隊航空学生に入隊後、国際農友会の農業実習生として渡米する。帰国後は市内にハンバーガーショップ「タイム」、レストラン「エルパソ」を開店。現在の「ランチョ・エルパソ」の土台を築き、ソーセージ・生ハム工場や帯広ビールなどを立ち上げる。現在は株式会社エルパソ会長に就任し、独創的な食文化とコミュニティづくりを牽引し続けている。

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