“挑戦”の二文字を大事に、素敵な田舎暮らしを実践する家族を紹介します。2018年に東京から北海道中札内村へ地方移住した梶山智大さん・千裕さん夫妻は、2年で互いのキャリアを生かして起業。株式会社AOILOを立ち上げ、目下奮闘中です。※この記事は、8月12日掲載のNOBELS WAVEの記事を一部抜粋して掲載しています。
名前:梶山 智大
◆36歳
◆静岡県出身
名前:梶山 千裕
◆35歳
◆神奈川県出身
【目次】
・地方移住は、東京でのキャリアがあってこそ
・最も大切なのはかけがえのない家族との時間
・2人が共に挑戦できる場所が北海道中札内村でした
・地方移住から2年で起業。株式会社AOILOとは……。
地方移住は、東京でのキャリアがあってこそ
夫の智大さんは、JR東海で「リニア中央新幹線(2027年開業予定)」の車両開発に携わり、妻の千裕は、都内のワイン輸入商社で、現地での買い付けやワイナリーを訪問し、生産者の声を消費者に届けるブランディングを担当。まずは2人のプロフィールを紹介しましょう。
静岡県出身で沼津工業高等専門学校(高専)に入学し、機械工学を学んだ後に大学(工学部)へ編入。大学院までずっと機械システムを専攻していました。卒業後は父親が大手企業に勤めていたこともあり、東海旅客鉄道(JR東海)に入社しました。当時は、大手企業であれば大きなビジネスに携われると思っていたからです。
ご存知の通り、JR東海は日本の将来の大動脈となるリニア中央新幹線を開発していました。「国家プロジェクトに携われる」というキーワードは、入社を決める大きな要因になりましたよ。入社後は技術畑の道を歩みました。新幹線のメンテナンスを経験し、その後は、リニア中央新幹線の実用試験をしていた山梨リニア実験線へ。入社から5年後にはリニア新幹線の車両設計を担う部署へ配属されました。
私は、神奈川県横須賀市に生まれ、中学・高校は横浜、大学が東京という学歴です。専攻は美術史学で欧州文化に興味を持ち、中でも食文化に魅力を感じたことがきっかけで、卒業後は食品専門商社に入社しました。商社では、1年目に都内百貨店に出店する直営店に配属。すぐにチーズやワインなど欧州の食文化を担当できたことで、入社当初から“やりがい”を感じさせて頂きました。
2年目には、銀座三越店に新規出店するチーズ売り場に移動し、半年後には店長として店舗運営を任されました。そこで出会ったのがフランスのMOF(国家最優秀職人章)が作る最高級のチーズでした。「もっと本場のチーズや食文化に触れ学びたい」とチーズプロフェッショナルの資格を取得し、単身渡仏。現地の料理学校やホームステイを通じ、現地の食文化の豊かさ、楽しさを学ぶ貴重な経験となりました。
最も大切なのはかけがえのない家族との時間
順風満帆にキャリアを積み上げた2人が出会い、結婚。家族を持つことで2人の人生に変化の兆しが現れてきます。そして、「北海道へ移住したい」と口に出したのは智大さんでした。そんなとき千裕さんは……。
はい。ただ、結婚を機に少しずつ心境の変化もありました。単身者の頃は仕事だけを意識していましたが、結婚後は家族単位で人生のキャリアを考えるようになりました。子どもの将来も意識することで思考は深まるばかり。
そんな、自問自答を繰り返す中で10年、20年後を描いたときに「仕事と生活は切り離せない」という結論に至ったんです。この先、会社員として転勤・異動は避けられません。自分の意志とは別の意思で環境が変化する中で、「家族との時間は取れるだろうか。一緒にいられる時間が減るのは嫌だ」と頭の中でぐるぐると回るんです。自分にとって何が一番大事なのかと思った先にあったのが「家族」でした。
当時の私はフランスから帰国後に入社した商社のワイン事業部で、インポーターとして海外のワイン生産者からワインを仕入れて日本国内に輸入し、消費者に提供するというミッションに力を注いでいました。JSA認定ソムリエの資格を取得し、キャリアアップも図っていたところでした。
なんとなくは気づいていました。当時は毎週のようにキャンプへ行っていたのですが、互いにいつも感じていたのが都心へ戻る際の渋滞です。会話でも「渋滞は本当に嫌ね。いっそ地方に移住したい」と話していたのを覚えています。
実は、幼少期に父の転勤で数年だけ北海道に住んでいたことがあるんです。そのときの雄大な北海道の景色や環境に憧れて、都心に住みながらもよくキャンプにでかけていました。中でも、道東の風景が大好きで、地方移住するなら「道東」と決めていました。キャンプに行くたびに、そんな想いは強まり、2017年の年末に意を決して、妻に「北海道に移住したい」と告白するわけです。
移住には賛成でしたが、生半可な気持ちではいけないと思ったので、「まずは私を納得させるプレゼンテーションをしてください」と回答しました。
2人が共に挑戦できる場所が北海道中札内村でした
夫から妻へ。意を決しての告白「北海道へ移住したい」。千裕さんの答えは「私を納得させるプレゼンをしてください」でした。智大さんの北海道移住プロジェクトがはじまりました。
移住する場所は道東と決めていましたから、すぐに現地調査を開始。何度も足を運んでは妻を納得させるための魅力を集めていました。そんな中で、十勝帯広空港からほど近い中札内村で見たのが、本州にはない、巨大な畑が連なるパッチワークのような十勝平野とその奥にそびえる壮大な日高山脈の風景でした。まさに私が求めていた北海道のイメージそのものです。
本当はプレゼンよりも先に、智大さんが行くたびに十勝中札内村の良さを聞いていたので、すぐに「私も行ってみたい」と同行していたんです。すると十勝には、生産者の息吹を身近に感じられるだけでだく、日常的に生の声を聞けるほど生産者との距離が近いんです。インポーターとして足りないと感じていた「生産者のリアルを伝える」ことができると確信できました。しかも、十勝には私が学んできたチーズとワインの生産体制も整っていたので、これ以上の場所はないと感じたのもきっかけですね。
十勝・中札内村には、私たちが「移住したい」「ここで挑戦したい」と思わせる魅力がありました。
タイミングよく、中札内村の地域おこし協力隊の募集があったので2人で応募し、見事に決まったことも移住を加速させた理由ですね。肩書は「中札内村の観光振興プロデューサー」でミッションは「村ではできないことをやってほしい」です。
本当に良い条件でした。それまでは生産者の声を聞き、消費者に届けたいというのが私の想いでしたが、「観光」というミッションが加わることで「消費者が現地に来るきっかけとなる伝道師になろう」と新しい目標もできました。
先ずは観光資源の開発でした。きっかけは、雪が積もる庭先でふと振り返ると足跡がきれいに残っていたんです。「これ生かせないかな」との直感から、見よう見まねで雪原に足跡で絵を描いてみると、思いのほか上手に描けたんです。JR東海時代の設計経験が生かせたのだと思います。完成したスノーアートをドローンで撮影してYou Tubeで流すとすぐに評判となり高まり、あっという間に「スノーアートヴィレッジ中札内」というイベントにまで発展し、私の新たな肩書として「スノーアーティスト」が誕生しました。
イベントは、スノーアートだけじゃありません。中札内村の桜の名所「中札内村桜六花公園」では、毎年5月上旬に六花亭製菓から寄贈された約1000本の蝦夷山桜が一斉に咲き誇るんです。設置された展望台から眺めると桜の木越しに広がる雄大な十勝平野を望める絶景スポットです。こんな観光資源を活用しないわけにはいきませんよね。
桜六花公園を会場に、「FETE de SAKURA Nakasatsunai / 中札内村 桜のある休日」を開催しました。花より団子ではありませんが、中札内村や十勝の人気グルメをキッチンカーで集めたり、Jazzコンサートを開き、大人の雰囲気のなかでワインと十勝産チーズが楽しめるバーも作りました。夜には桜のライトアップも楽しめます。人口4000人の村に5000人が訪れたんです。
地方移住から2年で起業。株式会社AOILOとは……。
地域おこし協力隊として、次々に打ち出す観光施策。協力隊としての期限は3年。二人がおこした次のアクションは起業でした。
観光振興プロデューサーとして、地域のために何ができるのかを常に考え、中札内村を盛り上げることに奮闘する中で、「人の笑顔を見られること、人に喜ばれること、人の役に立つこと。それらをリアルな距離感で感じられること」の幸せを噛み締めることができた2年半でした。そうした経験の先にあったのが、たくさんの人のため、地域のために「想像して創造する人(立場)」となり、それらを大きく広げていきたいという思いでした。そして、具現化したのが2020年12月10日に設立した株式会社AOILOです。
主にアウトドア・フード・ワインの3つの事業をメインに展開しています。アウトドア事業は、中札内村から指定管理者として選んでいただき、札内川園地を運営しております。ピョウタンの滝がある場所です。キャンプ場内には、建築家の隈研吾氏とアウトドアギアメーカーのスノーピークが作ったモバイルハウス「住箱」もあるので、テントで泊まるのが苦手な女性に人気です。
フード事業ではローストチキンの製造を始めています。中札内村の特産品である銘柄鶏「中札内田舎どり」の生の丸鶏を、村内の工場から鮮度の高い状態で直接仕入れて、一羽ずつ丁寧に「一鶏入魂」でお客様に大満足のローストチキンをお届けしています。
仕入れ後、速やかにかつ丁寧に一羽丸ごと特製の味付けで仕込むんです。添加物は一切使用していません!作り方としては、一晩冷蔵庫で寝かせ、十分に味を浸み込ませます。ロティサリーの本場ヨーロッパ製のローストチキン専用オーブンでじっくりと時間をかけて焼き上げています。仕入れから出荷まで冷凍はせず、新鮮な美味しさをそのままお届けできるんです。
3つ目は私が主体の事業です。2022年4月。美しい農村風景が広がる中札内村にワインのお店「LE BLEU(ル・ブルー)」をオープンしました。イタリアやフランス、オーストラリアやカリフォルニアのワインなど、に約80種類ほど取り揃えています。ワインに合わせた北海道産チーズや弊社のローストチキンなどフードも充実しています。
また、LE BLEUでは生産者のメッセージが伝わるよう、ワインの特徴とともにワイナリーのストーリーと併せてご紹介しています。ぜひ足を運んでください。
週刊ヤングジャンプ」(集英社刊)で、2014年より好評連載中だった『ゴールデンカムイ』(野田サトル・著)が、22年4月28日(木)発売の22・23合併号をもって完結しました。
これを記念して、物語の舞台である北海道(中札内村)の雪原にアシリパと杉元を描いたスノーアートを作りました。作品を収録したWEB動画が公開されるとともに、東京の新宿駅に巨大なアート広告も飾られたんです。北海道の大自然の雄大さを感じとってもらえればと思い制作しました。
ありがとうございます。これからはスノーアーティスト梶山智大として、株式会社AOILOの経営者として、十勝・中札内村をプロデュースし続けていきます。
私たちの挑戦ははじまったばかりです。北海道十勝の中札内村は、住みやすさだけではなく、“挑戦”できる環境であること、人が生きる上で大切な心のゆとりを得られる場所であることを伝えていきたいです。
都会の大企業では、それが当たり前と思っていた価値観や仕組み。人が生きる上でそれが全てではないと気づかせてくれ、かつ、新たな生き方を実現できる環境が揃うのが十勝・中札内村です。これからもそれを実践して、私達の生き方や中札内村の進む道を伝える役割として、挑戦し続けていこうと思います。
【PROFILE】
AOILO代表取締役 | スノーアーティスト
名前:梶山 智大 静岡県出身
静岡県生。信州大学大学院工学系研究科機械システム工学専攻を修了後、JR東海に入社。リニア中央新幹線の車両開発・設計を担当。2018年10月より地域おこし協力隊として北海道中札内村に移住。スノーアーティストとして活動をしながら、地域イベント「スノーアートヴィレッジなかさつない」の開催・運営に尽力する。2020年に株式会社AOILOを設立し、現在はキャンプ場の運営のほか、ワインと北海道産チーズ、フードのショップ「LE BLEU Hokkaido」の運営、中札内田舎どりのローストチキンのEC販売など、北海道の豊かな自然と大地の恵みを生かした事業を展開している。
【PROFILE】
LE BLEU Wine&FoodCookie & WineHokkaido ソムリエ | 店主
名前:梶山 千裕 神奈川県出身
早稲田大学第一文学部にて美術史学を専攻し、食品輸入商社に入社。2012年に渡仏し、リヨンのポールボキューズ料理学校へ料理留学。2018年に夫と中札内村へ移住。地域おこし協力隊を経て、夫が創業したAOILOに入社。チーズプロフェッショナル、ソムリエの資格を有し、現在は中札内村のワインショップ「LE BLEU」の責任者としてワインとチーズの楽しみ方を伝えている。