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空き家リノベーションは地方で起業する成功例のひとつ?帯広にJターン・Iターンした加藤夫妻のお話

空き家のリノベーションは地方移住や地方で起業する人たちにとって、大きなきっかけになっています。住むため、地域再生を目的としたスペースやカフェ利用などなど。今回は、十勝の空き家の利活用を進めようと立ち上がった加藤夫妻の物語をお伝えしましょう。

空き家のリノベーションは待ったなし

ご存知の通り、「空き家問題」は日本の課題のひとつです。国土交通省によると国内の空き家総数は約849万戸(2018年)と推定されており、今後も続く人口減を背景に増加が見込まれています。空き家の増加推移を見ると、1998年の576万戸に比べ、18年には849万戸と20年間で約1.5倍に増加。空き家が増えると、空き家の適切な管理が行われず、防災上や防犯上、また衛生面や景観面などにおいて、地域住民の方々の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることが課題となっていまます。

御多分に洩れず、田舎である北海道十勝でも空き家は増加しており、十勝19市町村の多くで前述の問題を懸念し、課題として取り組んできました。しかしながら、人口減や人口流出が続く中で、住む人・活用する人が減っているわけですから、根本的には解決に至っていないのが現状です。

一方で、ほったらかしの空き家を横目に、新たな移住者の住宅が不足しているという課題を知る人は少ないでしょう。つまりは、空き家は増えるが、誰も手を加えず、放置されているため管理不全の物件が多く、すぐに住める家が不足しているのです。

そこで今回の主役の登場です。十勝の空き家問題を解決するために立ち上がったのが仙台からのJターン者と札幌からのIターン者である加藤夫妻です。

建築士の舞さん(妻)と営業・企画・焚き火が得意な拓さん(夫)の夫妻は、ともにJターン・Iターン者として2015年に十勝帯広市へ移住しました。

十勝への地方移住を叶えるまでには紆余曲折ありました

夫の拓さんは、宮城県仙台市で生まれ育ち、高校卒業後に北海道酪農学園(江別市)に入学。これが北海道との縁の始まりです。

「振り返れば、北海道とは大学時代からですから、20年くらいの縁ですね。北の国から大好きで、自転車で全道を旅して回ったこともあります。趣味のひとつにスノーボードもあるので、雪山も得意です。焚き火マスターと称しているほどアウトドア派なんです」と話す拓さん。

そのまま北海道に残ったかというと、実はそうではなかったそう。

「大学卒業後は東京に本社を置く農業用機械メーカーに就職しました。その後、ふるさとの仙台営業所や同じ東北の秋田に転勤するなど、東北を中心に終わるのかなと思っていました」(拓さん)

転機は突然やってきます。それは農業機械メーカーだからこその機会でした。農業王国十勝に拠点がなかった会社が、不景気なんてどこ吹く風よと、右肩上がりに成長する十勝農業の将来性にかけて、十勝帯広に拠点を立ち上げることなります。拓さんは、この話を聞き自ら立ち上げ担当者として志願。見事に選ばれ叶ったというわけです。

移住後の起業は十勝じゃなければ成立しませんでした

大好きな北海道移住の切符を手に入れた拓さんですが、北海道最大の都市であり、不便もなく、舞さんのふるさでもある小樽や大都市札幌ではない十勝帯広でよかったのでしょうか。

「北海道は大好きですが、住む場所は札幌ではダメだったんです。理由は天候です。十勝晴れという言葉を知っていますか?十勝は降水量が少なく、日照時間が全国的にも長い地域なんです。逆に札幌は、いつも低気圧により雲に覆われ、毎日のように雪が降ります。幻想的な雪をイメージされる人もいますが、どんより雲がかかる天気は閉塞感を抱かせるんです。東北の秋田も同じでした。同じ冬なのに、十勝は毎日青空が広がるんです」(拓さん)

「十勝晴れ」。拓さんを十勝へ誘うパスワードがそれでした。

小樽出身で拓さんと結婚後、東北での転勤生活を共にした舞さんに、札幌よりも不便な十勝帯広について聞くと、「大賛成でした。現在、住んでいる帯広の自宅はグリーンパークと呼ばれる1週1200mの芝生の公園も近いですし、グリーンパークの周辺は緑ヶ丘公園が近いので、運動したり、遊戯施設で遊んだり、芝生でピクニックのほか、美術館、歴史館、動物園も揃うので、休みの日は歩いて行っていますよ。他にも、十勝には手付かずの自然も残っているので、山や川、湖のほとりでキャンプ、カヌーとアウトドアを楽しめます。極め付けは、十勝に住む人は当たり前なのですが、自宅前や近くの公園で気軽にBBQができるんです」と心配は杞憂に終わります。

念願の北海道十勝での生活をはじめて6年。十勝での生活はまさに水を得た魚のよう。

幼い頃から、アウトドアが好きで「焚き火マスター」として活動する拓さんにとっては、自然がすぐそばにあり、いつでもキャンプをできる十勝は最高の居場所です。

「自然の中での焚き火を通して、子どもたちにいろいろと伝えられています。焚き火を前にすると不思議と会話が弾むことってありませんか。炎を見ていると心が落ち着き、リラックスするからですね。十勝は空だけはじゃなく、どこまでも畑や道路が続く十勝平野の抜け間は、全国どこを探してもない景色も気に入っています」と意気揚々と語ります。

慣れない場所でのご近所付き合いはどうでしょう。

農業王国で、農業を基軸に経済が成長し続けているので、住んでいる人たちも心に余裕があるというか、大らかな人が多いですね。十勝には高層ビルも大型のショッピングモールもありませんが、ほどよい都市機能と自然が融合された、わたしたちにとっては最高の環境が整っています」(舞さん)

これまた心配は無用のようです。

2015年。仙台市・⼩樽市の出⾝者2人が、札幌市・江別市・福岡県・宮城県・秋⽥県を経て⼗勝へ移住した加藤夫妻。

「暮らし始めた時の感動は6年経った今でも忘れません。十勝の魅力は語り尽くせません。⾃然、景観、⾷べ物、⼈など、全てが他の地域に無い魅⼒で溢れています」(拓さん)

十勝永住と地方起業の決め手は「十勝人チャレンジ支援事業」

順風満帆の十勝帯広生活でしたが、忘れてはならないのが拓さんが転勤族であること。現地事務所の立ち上げから5年。そろそろ辞令の足音が聞こえはじめた時。二人は大きな決断をします。

十勝帯広に住むための方法。それが「起業」でした。

起業するために挑戦したのが、公益財団法人とかち財団の十勝における新たなビジネスにチャレンジする人材を育成する「令和3年度十勝人チャレンジ支援事業」でした。

「私が2級建築士の資格を持っている点と、空き家問題が重なったこともありますね」と舞さん。一方で拓さんも「僕は、セールスや企画畑を歩んできたので、自ら営業して、相手の話を聞き出し、課題解決や商品・サービス素材をどうアプトプットするまでを提案できるのが強みです」と二人が導き出したのが、「空き家のリノベーション」です。

拓さんが、クライアントの課題を理解し、解決方法を導き出し、建築士の舞さんが具現化させる。二人だからこそできる事業でした。

「得意のアウトドアの知見も加えて十勝ならではの気候や風土にあったリノベーションができるんです。本当の意味で施主に寄り添う住まいづくりができると確信できました」(拓さん)

そうして応募した「令和3年度十勝人チャレンジ支援事業」で見事に採択されます。

奇しくも新型コロナ禍での決断でした。

それでも二人は「十勝に住み、多くの人の課題を聞いてきました。厳しい時期での立ち上げでしたが、多くの方々に声をかけていただき、また、新たな繋がりも広がっています。十勝に支えられている気がしますよ」と揃って起業した2年前を振り返ります。

空き家リノベーションは加藤夫妻だからこそ可能な事業

「地方移住がトレンドの昨今。空き家のリノベーションは、地方移住する人たちにとって大きなきっかけになっている」と話すのは、加藤夫妻が起業する際に相談に訪れた、地域発の新たな事業創発・起業創業を促進するためのスタートアップ支援スペース「LAND」の高橋さん。

高橋さんは、空き家を放置するリスクとリノベーションの必要性についてこう語ります。

「全国で空き家は年々増加しています。なかでも社会問題化しているのが、長く放置された空き家です。家が建てられている土地は「住宅用地の特例」が適用されており、固定資産税額が本来の6分の1に軽減されています。そのため、空き家を解体せずに放置してしまう人も多いのです。そこで2014年に「空き家対策特別措置法」が成立し、適切な管理がなされず衛生・安全性などが保たれなくなった空き家について、行政が「特定空き家」に指定できることになりました。これがリノベーションの追い風となりました。特定空き家に指定されると優遇措置の対象から外れるため、固定資産税がそれまでの6倍に跳ね上がることになります。住まない家に多大な税金を払わないためには空き家を放置せず、リノベーションをして住む、あるいは賃貸に出す、更地にして売却するなど、処遇を早めに考える必要が出てきたのです」

2級建築士の資格を持つ舞さんはセールスや企画畑を歩み、自ら営業して、相手の話を聞き出し、課題解決や商品・サービス素材をどうアプトプットことのできる拓さん。まさに空き家のリノベーションは、2人に最適な事業に当てはまりました。

前出の高橋さんも「十勝の空き家リノベーションは、加藤夫妻だからできるビジネスです。アウトドアに精通する拓さんは、十勝に気候風土を理解した提案ができます。それを依頼者のライフスタイルに合わせてデザイン設計できる舞さんがいるからこそ、十勝にあったリノベーションができるんです」と後押ししたといいます。


リノベーション/ビフォーアフタ

東日本大震災が人生観を変え、夫妻を十勝へ誘い、地方起業へ

会社名である「Pono Wolves」には、二人の想いが込められているそうです。

「私達は住まい・環境・⾷を軸に⼈と⼈との繋がりを⼤切にしたいと思っています。Ponoとは、ハワイ語で正しさ、本来の状態という意味が込められています。思いやり、優しさ、楽しさ、嬉しさ、喜び、尊重、応援、信頼、許すなどのポジティブな⾔葉や思想・⾏動のことを表す⾔葉です。そして、Wolvesとは狼の本来の姿は仲間や家族と共に行動し、互いを思いやる動物です。⼈と狼の親和性の⾼さからWolvesを社名に採⽤しました」(拓さん)

二人がこの想いにたどり着いたのには理由があります。

それが、2011年3月11日の東⽇本⼤震災でした。

当時、二人は仙台に住んでいました。「初めて命の危機を感じたこの⽇の経験は忘れることはありません。⻑時間の激しい揺れ、その後の季節外れの雪が舞っていた景⾊は10年経った今でも鮮明に覚えています。震災の経験は、私たちの人生観を変えました。⼈⽣はいつ終わるかわからないと痛感し、今までの価値観が崩れたんです。⽣き延びた命、これからは⾃分のやりたい事・⼈の為になる事をして⽣きていきたいと強く思う様になりました」(舞さん)。

人生観が変わった二人は、社会に対して何が出来るかを⾃問⾃答してきました。そしてたどり着いたのが、大好きな北海道に戻り、住みたかった十勝で楽しく生きるために、住む場所の課題を自分たちで解決していこうという前向きな意志と行動でした。

地方起業した夫妻の歩みは止まりません。2023年「宿泊業」を開始

最後に今後の目標について聞くと、「2023年は宿伯事業にも挑戦しようと思っています。自宅も空き家(店舗)をリノベーションしたんです。ぜひ、ご覧ください。十勝の気候や風土にあった素材や色使いを基本にデザインしているので、お客様の脳裏にあるイメージを引き出すきっかけにもなりますよ」と拓さん。

二人が挑戦する宿泊事業は、絶景をテーマに⾮⽇常を体験することができる貸別荘宿泊事業だそうです。そこに十勝らしさを体現したサウナ・焚き⽕などプライベート空間で癒しと豊さを提供することで、新型コロナと共存する宿泊施設にするといいます。

「⾮接触型の宿泊事業運営を選択するのは必然な世の中です。そこに、弊社の強みであるアウトドアと建築を掛けわせることで、⾮接触型でありながら、十勝らしいアクティビティを楽しめる宿泊事業ができるのではと考えています。私たちは、2人が経験してきたすべてを混ぜ合わせたマーブル模様のような事業を立ち上げていきます」(拓さん)

空き家問題は待ったなしです。二人の力で十勝らしい新たな居場所(リノベーション)が増えることを期待せずにはいられません。二人の挑戦は始まったばかり。今後もSUMAHIROでは「Pono Wolves」の様子をご紹介していきます。

【PROFILE】

加藤 拓|TAKU KATO
Pono Wolves株式会社|代表取締役

宮城県仙台市出身。酪農学園大学環境システム学部地域環境学科卒業。建設資材商社で農業機械メーカー営業。江別市・福岡県・札幌市・仙台市・秋田市を経て十勝へ移住。焚火マスターとして活動。火と木をこよなく愛し、薪ストーブの前でブッシュクラフトをする日常。家族全員サウナ―。全国のサウナ施設に行っている

加藤 舞|MAI KATO
Pono Wolves株式会社|専務取締役

北海道小樽市出身。建築会社・設計事務所にて住宅、店舗設計、アパレル業界にて流通や接客、コーヒーショップにてコーヒーの知識を得る。札幌市・仙台市・秋田市を経て十勝へ移住。二級建築士として暮らしやすさとデザイン性を重視した空間づくりを提案している。 コーヒーと古道具・家具をこよなく愛し、毎日ハンドドリップでコーヒーを淹れて飲んでいる

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。



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