帯広で映画を観た!シネマ de 十勝は、帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女子が、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民として、十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格の実力を発揮しつつ、帯広・十勝の話をしつつ、映画を語るコラムです。
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『北斗の拳』は『マッドマックス2』からインスパイア
映画『マッドマックス:フュリオサ』。核戦争後、世界が崩壊し土地も人も荒廃しきった、力こそ正義な世紀末シティ。前作までを見たことがない人でも『北斗の拳』を知る人なら、この世界観に親和性があるはず。というのも原哲夫先生が大ファンで、『北斗の拳』は『マッドマックス2』からインスパイアを受けているから!
という資源の偏りと、ならず者たちが有り物パーツで魔改造した車・バイクで砂漠を疾走する、そんな「ヒャッハー!」世界におけるシリーズ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚です。
『怒りのデス・ロード』に登場する女戦士フュリオサが、イモータン・ジョーの大隊長に至るまでの変遷が描かれています。
最近見たシリーズ物の中では、一番前作までを気にせず見やすかった作品でした。
予習なしにいきなり本作から参入しても話は分かりやすいと思います。(全般「考えるな、感じろ」な話で、「あのハゲた人=人喰い男爵=はなぜ自分の乳首をいじっているのか?」というと「そういう人だから」としか答えようがないですし)
むしろ『フュリオサ』を見てから『怒りのデス・ロード』を見た方が、フュリオサの解像度が上がると思います。
治外法権の「ヒャッハー!」
暴走行為より鍬を持った方が生産的だろうとか、この世の道理が通じない治外法権の「ヒャッハー!」シティに、こちらも丸腰で向かうのも心許ないので、長物(チュロス)片手に参戦。
しかし、いきなり自分の席に人が座っていて、
と洗礼を浴びました。
その方、本当の席は通路の最前列だったので、無法地帯というより「自分が通路の一番前の席を買ったはず」という意識もおぼつかなくなる高齢化社会の話でしたが。
観客の年齢層が高いのもそのはず、『マッドマックス』シリーズ第1作は1979年公開なのです!(まだ主人公のマックスが警官で、家族の復讐のためマッドに染まっていた頃)
ジョージ・ミラー監督、御年79歳!! 撮影期間はもっと若いにしても、それでもあの密度の作品を、すごいわ!!
作中、何度も繰り返される「危ない! いや助かりそう! でもこんなの捕まるに決まってるって! 案外行けそう? やっぱりダメだった――!」みたいな危険な目に遭い続ける、状況を作り上げるのが、とても上手い!!(『怒りのデス・ロード』に登場するんだし、主人公なんだからフュリオサは死にはしないと分かっていても、ヒヤヒヤさせてくれます!)
むしろ、だらしがないことに見ているこっちが疲れるくらい、これでもかというドキドキハラハラの連続で、堪能させてくれます。
世界がどうこうというより、フュリオサという個人とその復讐に寄った話なのが個人的には良かったです。
ただし『怒りのデス・ロード』との間を繋ぐ話なので、完全に「めでたしめでたし」「世界はよりよくなるでしょう」「悪党どものを全員ぶっ潰す」にはならない。そういう制約下での完結を迎えているので、主人公の苦労の割に後味としては痛快感や爽快感は薄いかもしれません。
しかもアクションシーンは、うるさいのにスッキリしてるんです!!
何を言ってるか分からないと思いますが、絵面は濃くて強いし、特殊な世界観の造形がよく作り込まれている。
そんなふうにビジュアルは濃厚なのに、人数が多い混戦でも、それぞれが何をやっているか位置関係含めてスッキリしていて見やすかったです。
人数多いと(多くなくても)、一部のクローズアップはともかく、全体で何が起こっているか分からなくなる映像って時々ありますが、フュリオサはそれがなく、どこに誰がいて何をやっているかが明確に伝わる。
だから、アクションに限らず忙しいシーンの連続で、初見はやはり主人公の動きとストーリーを追ってしまっても、「このシーンで他の人たちはどんな動きをしていたんだろう?」と何度も見返したくなる習慣性を感じました。
ダサカッコよさ(?)というのか見入ってしまう
ドキュメンタリー映画『ヘヴィメタル・イン・ザ・カントリー』に登場する、根拠はないけれど個人の感想として有名になったパワーワード
「ヘヴィメタルは――まだガンには効かないがそのうち効くようになる」
『マッドマックス』の世界観には、そんなヘヴィメタルと習慣性を感じる――。(個人の感想です)
作中でフュリオサが、ディメンタスとイモータン・ジョーというどちらもどうしようもない悪人の、どちらに寄るか自ら選ぶシーンが登場します。
どこもまともじゃないブラック企業への就職とか、どっちもどっちな候補者な選挙とか、究極の選択をしなくてはならない時、自分の譲れない軸・選択基準を持っておくことって大事だなと……そこだけ急に現実に立ち戻るリアリティを覚えましたが。(そんな話ではない)
この世界中の数々の造形は、美ではないし生理的には受け付けないはずなのに、ダサカッコよさ(?)というのか見入ってしまうものがあります。
今回の悪役ディメンタス(クリス・ヘムズワース)は、クマのぬいぐるみをつけてるし。
馬三頭立ての戦車(チャリオット)ならぬ、「それアクセル・ブレーキどうなってるの?」なバイク三頭(?)立てだし。
そんな中でも、ありのままの主演のアニャ・テイラー=ジョイの目がとてもよかったです!
本来、華奢で可愛いらしい女性なのに、印象的な目がそれだけでも不屈の戦士になっていました。(子役も似た目をした子を連れてきたのかと思ったら、合成だそう!)
自分の生を自分の腕で切り開くフュリオサの格好よさと、今回のディメンタスの小悪党ぶり&ぬいぐるみの他に際立っていた三人を紹介するぜ!
フュリオサの母!(チャーリー・フレイザー)
「緑の地」から娘を誘拐した男たちを追跡する狙撃手。母、かっこいい!!
イモータン・ジョーの警護隊長ジャック!(トム・バーク)
イカれた世界で正気を保っていても、死ぬ、力がなくても、死ぬ。そんな無慈悲社会での一時のオアシス!!
エルサ・パタキー!(ここだけ本名)
「緑の地」フュリオサの母の同胞で、誘拐されたフュリオサを当初一緒に追跡する女性。――からの、まさかディメンタスの部下としても一人二役で再登場していた、らしい!
イモータン・ジョー役のラッキー・ヒュームは、隻眼のディメンタスの部下役も務めているのは気づいていましたが、こちらは気づいてませんでした! 全然イメージが違うし、完全別人だと思った!!(夫のクリス・ヘムズワースと夫婦で「ヒャッハー!」してたの!?)その落差、ぜひご覧いただきたいです。
メカ馬(農業用トラクター)と競う「国際トラクターBAMBA」
さて、迫力ある重機が大地を疾走するといえば、トラクターBAMBA(ばんば)!(強引な展開)
帯広市には、今や1市開催・世界唯一となった「ばんえい競馬(ばんば)」がありますが、かつて更別村(さらべつむら)ではメカ馬(農業用トラクター)がパワーと技術を競う「国際トラクターBAMBA」大会が開催されていました。
その勇姿はYoutubeなどで残っていますが、シストセンチュウを他の畑に持ち込まないための苦渋の決断で中止されました。
世紀末シティでなくとも、畑や農作物をダメにするのは簡単なのです。タイヤや靴底についた土が、病害虫に汚染されているだけで……。
北海道の大自然、観光客からするとフォトスポットに見える場所は、ほぼほぼ農地だったりします。
ならず者ではない人は、季節問わず、人の土地に車で入ったり足を踏み入れ「ヒャッハー!」されませんよう。
トラクターBAMBAが行われていた十勝の更別村は、村の木が柏。ということで、村のキャラクターは柏になる実のどんぐりをモチーフとした「どんちゃん」です。
「小さな実から大きな木が育つように村が発展してほしい」という願いは、「緑の地」の民として母から種を託されたフュリオサも同じテーマを担っていました。(『北斗の拳』の種モミおじいさんも)
今回も強引に十勝にこじつけたつもりが、立体の「どんちゃん」が思っていた以上に「『マッドマックス』に登場してそう」感があって驚いたのでした――。
(『レディ・プレイヤー1』でキティちゃんやケロッピがテプテプ歩いていたみたいに)