作品名:自閉症が30歳の僕に教えてくれたこと
著者:東田 直樹
出版社:KADOKAWA
話し言葉を持たない重度の自閉症の著者が伝える自閉症の独特な感覚
著者の東田直樹さんは、いわゆる〝会話〟ができずにパソコンや文字盤ポインティングによりコミュニケーションをとっています。
そんな彼の最新刊であるこの本は、数ある東田作品の中でも上位にはいる内容。自閉症の独特な感じ方捉え方が書かれた本はたくさんありますが、重度の当事者が書いたものは数少なく、それ故コトバのチカラが強く魅力的。
その言葉の数々に、アメリカ人セクシー美女の「カモーン」と下から上に手招きする誘惑のように惹きつけられるはずです。
自閉症の専門職として約20年間働いてきた私が、目から鱗ではなく、魚そのものがでてくるほど衝撃を受けました。
ひとりでも多くの人に読んでもらいたい、自分の世界を広げることができる1冊です。
宇宙人に悩んでいるあなたへ
まずはじめに、自分にとって理解し難い人のことを宇宙人と定義させてくださいね。
そして、その宇宙人は誰の周りにも意外といるもんなんですよ。
どうですか?
はい。私です。
最近はようやく「変わってるね」に免疫がつきました。
世の中にはたくさんの人がいて、いろいろなタイプの人がいますよね。この本に書かれているのはその中のほんの一部の自閉症のことですが、〝こんな風に感じる人もいるんだ〟と知ることで、いろいろな人に寄り添うきっかけになるかもしれません。
例えば〝目を見て話を聞くのが苦手〟な理由。
例えば〝何度言ってもわからないように見える人〟の理由。
この他にも、いろいろな特徴が載っているので参考にしてみてください。
もし、これを読んで少しでも理解できたら、悩みは少し軽くなるかもしれません。
今までの優しさは本当の優しさではなかったのかもしれない
この本を読み終え、気がつくとたくさんの付箋が貼りつけられていました。
人の心を持っていないでお馴染みの小川としてもびっくりなくらい心が動きました。さて、そんな中でも自分の常識を覆すきっかけになった文章を2つ紹介させてください。
「少しずつできるようになればいいよ」というのは、やさしい声かけです。でも、相手がそう思っているかどうかはわかりません。今すぐにでもできるようになりたいと考えている人が、障害者にもたくさんいます。
これにはもインリン・オブ・ジョイトイもびっくり。秒で悩殺されました。「ゆっくりでいいよ」「そのままでいいよ」と何回言ってきたことか。今度からはもっと丁寧に言葉を選びます。
幸せな子どもが幸せな大人になるとは限らず、幸せな大人が幸せな高齢者になるとは限りません。不幸な子どもが不幸な大人になるとは限らず、不幸な大人が不幸な高齢者になるとは限りません。さしあたって今日一日幸せなら、満足と言えるのかもしれません。
これを読んだ瞬間に昭和のオジさんお馴染みの「なるへそ」が思わず口走ってしまいました。頭ではわかっていても、今と未来はイコールだと考えてしまう自分がいたことに気がつきました。
反省です。
私はこの本をきっかけに一皮剥けた気がします。これ以上いい男になったら、困っちゃいますが。
さぁ、あなたもこの本を読んで脱皮して一回り大きく成長しませんか?
Profile
小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen(せん)」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー!』(みらいパブリッシング)か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当