【書評】本の虫 小川の本棚 「マンガでわかる 子どもの困りごと攻略ブック できない・やめられないが多い子がわかる解決法」presented by Book cafe & bar Sen 082

作品名：マンガでわかる 子どもの困りごと攻略ブック できない・やめられないが多い子がわかる解決法
著者：モンズースー
監修・解説：平岩幹男
出版社：Gakken

「マンガでわかる」は「誰でも読みやい」

この本との出会いは、まるで偶然のようでいて、実は必然だったのかもしれない。とある書店で、何気なく保育や特別支援教育関連の本を眺めていたとき、ふと目に留まったのがこの一冊だった。

正直に話すと、ここ数年、いわゆる〝学び関連〟の本を選ぶときは、エッセイや漫画のような読みやすいものを避け、できるだけ難解な専門書を手に取るようにしていた。それは「専門職としてのプライド」でもあり、同時に「自分はもっと知識を深めなければならない」という強迫観念のようなものでもあったのかもしれない。あるいは、ただ単に「難しい本を読んでいる自分」に酔っていただけなのかもしれない。

そんな中、この本はなぜか気になった。表紙のデザインに惹かれたのか、それともタイトルにどこか親しみを感じたのか。とにかく、気づけば手に取っていて、ページをパラパラとめくっていた。そして驚いたことに、その内容は決して「一反木綿（いったんもめん）」のようにペラペラではなく、むしろ思わず「なるほど！」と声が出るほどの濃厚さだったのだ。

そしてもう一つ、この本を読んで感じたのは、「これは誰かにオススメするのにぴったりだ」ということ。難しすぎず、それでいて浅すぎない。子育て中の方はもちろん、子どもたちをサポートする仕事をしている人にも、ぜひ手に取ってほしい。そんな想いとともに、迷うことなくレジへと向かった。

これは、まさに「紹介せずにはいられない」一冊です。

 

痒いところに手が届く充実の内容

やる気はあるのにうまくできないことが多い。悪気はないのに、つい同じことを繰り返してしまう。そんな子どもたちの「なんで？」や、大人の「どうしたらいいの？」に寄り添う一冊。

この本は、子どもの困りごとを漫画でわかりやすく解説しているのが特徴。よくある特性の例をコミカルなストーリー仕立てで紹介しながら、「なぜそうなるのか？」を丁寧に紐解いていく。しかも、アドバイスをくれるのは…なんと異世界のキャラクターたち！そう、まさかの異世界転生（？）ものです。とはいえ、ファンタジー要素に気を取られてしまう心配はご無用。むしろ、そのユニークな設定のおかげで、子どもたちも楽しく読み進められるようになっています。

漫画部分では、周囲に理解されにくい特性を持つ子どもが「どうしたらいいか？」を模索し、異世界の仲間たちからヒントを得ながら、自分に合った方法を見つけていく。大切なのは、「できない」ではなく「こうすればうまくいくかも！」という視点を持てること。

さらに、漫画以外の解説部分では、専門的な知識を交えつつ、具体的な工夫や対応方法を紹介。「そんな方法があったのか！」と目から鱗のポイントが満載なのだ。しかも、漢字にはふりがなが振られ、小学生でも無理なく読める工夫がされているのが嬉しいところ。また、「障がい」などの言葉を使わずに表現されているため、まだ理解が進んでいない子どもにも手に取りやすくなっているので安心。

本人の自己理解を深めるため、また、友だちの特性を知り、お互いに歩み寄るための一冊。保護者や教師も一緒に学べる、優しさと実用性を兼ね備えたコミックです。

「この本を読む人へ」ですでに心を掴まれる

本の表紙の袖には、「よくある困りごと18」と、それぞれの内容がリストアップされている。これがそのまま本の目次とリンクしており、「自分が知りたいことがどこに書かれているのか」が一目でわかる親切な設計になっている。そしてページを開き、数秒後にはもう、一文にマーカーを引いていた。

その一文とは、合理的配慮について書かれたもの。その表現方法が実に秀逸だったのだ。一言で言うならば――「メガネをかけて見えるようになったからといって、メガネというサポートを外さないでしょ？」と。

この言葉を読んだ瞬間、胸を突かれる思いがした。ボク自身、専門職として子どもたちと関わる中で、支援を「いつか手放さなければならないもの」と考えてしまうことがあった。「配慮をなくしてこそ自立なのでは？」と思ったこともある。いや、むしろ、それこそが本当の自立だと信じていたのかもしれない。でもこの一文を読んで、たった1分でその価値観が崩れた。「支援を受けながら生きること」は、「自立」と決して矛盾しないのだ、と。

そして、その後もページをめくるたびに、ハッとさせられる言葉が次々と飛び込んでくる。「好き」や「能力」を活かした仕事に就ける人ばかりではない。でも、自分の「好き」や「能力」は、何より大切にすべきもの。それが人生の楽しみになるのだから――。まるで、自分の心の中でモヤモヤしていた考えを、この本が代弁してくれているようだった。
たくさんの気づきをもらい、たくさん学ばせていただいた一冊。きっと、あなたが読んでも、大きな発見があるはずだ。だからこそ、まずは手に取ってみてほしい。

 

子どもから大人まで幅広い世代が読んで学べるこの本は、誰かの人生を軽くすること間違いないので読んでみることをオススメします。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。