帯広で映画を観た!シネマ de 十勝は、帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女子が、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民として、十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格の実力を発揮しつつ、帯広・十勝の話をしつつ、映画を語るコラムです。今週の映画は『ラストマイル』です。
前回のコラム「帯広で映画を観た!」はコチラ
『ラストマイル』を観た
この映画、「ネタバレ厳禁!」の人は見に行く前に、絶対にWikipediaを開かないでください。
コラムを書くためにあちこちチェックしていたら、話のあらすじが全部書いてありました……。
ストーリーとかを事前に押さえておきたい人は、公式サイトを参照するのがいいと思います。
以下は、『ラストマイル』公式サイト『STORY』より抜粋です。
世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。
>やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。
>巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、
>チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
映画『ラストマイル』公式サイトより
私自身は、人には配慮したい方ですが、自分が事前にネタバレを見聞きする分には気にしない方です。
そんな人間でも、先の展開がどうなるのかのハラハラを楽しむサスペンス映画の、事件の進展から犯人・結末まで、あらすじを全て書くのはいかがなものかと思いました……。
『ラストマイル』は、『ユージュアル・サスペクツ』のように、何も知らない状態で見ていただきたい映画です!!
『ラストマイル』の「ここがすごい!」3つの『S』
『ストイック STOIC』
事前告知でも謳われていたのは「『アンナチュラル』『MIU404』に繋がるシェアード・ユニバース・ムービー」という点。
『アンナチュラル』は嗜む程度で、『MIU404』は未知の人間には、お呼びではないようで腰が引けていました。
私にとって『アンナチュナル』は「ミコト(石原さとみ)が主人公(よく食べる)=ヒーローで、中堂さん(井浦新)が悲劇のヒロイン!」レベルの認識。
(合ってはいないけれど、大外れでもないはず)
それより、私でも知ってる俳優陣を登場させておいて、ここまで「ちょこっと」使いをするのはすごかったです。
・事件・事故が起こった後に遺体の声を聞く人たち(『アンナチュラル』)
・爆発事件の謎に到達し、アプローチする人たち(『ラストマイル』)と、各登場人物たちを挟んで
・対比構造がより鮮明になるとはいえ。
脇道部分を増やすとかもなく「必要な箇所にだけ」という感じで、もったいない精神を発揮せずにいられる製作陣の自制心「強いな」と思いました。
更にそこまでして、作中で一貫して訴えられているメッセージは「死ぬ気でそれができるなら、生きろ」
(「LEMON」の人である中堂さんは「そう言うだろうな」というセリフはありますが)
それなのに、生きている登場人物たちに対して作中での「救い」は少ないなど、エンタメなのにスーパーストイックでした。
『スピード SPEED』
この作品は公式HPでも「ノンストップサスペンスエンタテインメント!」と冠されています。
その名の通り、話の進行によどみがなく、いい意味で「日本映画っぽくない」作品です。
テキパキとしたテンポ感で繰り広げられるだけでなく、ベルトコンベア停止や配送の遅れが『悪』とされる物流業界の話です。
物語の進行とともに、物流という社会を支える動脈の一つが動き続ける様子が描かれています。
(ベルトコンベアの効果音も後ろで流れ続けています)
作中で起こる事件・事故によって、コンベアは「止まる(時速0mになる)のか?」
そこが一つの焦点にもなっています。
またテンポが良い分多くは語られないため、レーティングはされていないけれど、個人的にはある程度の「大人向け」映画だと感じました。
年は重ねていても考えなしな人はいるので、年齢で線引きするのも語弊があるのですが。
R15・R18作品のような、グロテスクだったりセンシティブな映像が多々含まれているという意味ではなく。
「削ぎ落とされている部分を、想像力を巡らせ自分なりの答えを見出す力」が必要だろうと思うからです。
解釈できる余地が多いので、何から何まで答えを教えてくれる完全受け身のつもりでいくと、置いていかれること請け合い。
逆を言うと、1回見ただけでは不十分で、再確認したくなる脚本の良さを感じました。
連続爆破事件だけあって、決して登場人物たちにとって後味のいい終わり方ではないにも関わらず、です。
刺さる人には、自分で噛み締めたり、他の人の考察を見たりして「そういうことだったのか!」と二回、三回と見たくなるだろう映画でした。
『スマート SMART』
本稿の掲載されている『スマヒロ(SUMAHIRO)』の『スマ』は『スマート』から来ていて、それをローマ字化した、と風の噂に聞いています。
その意図しているだろう『スマート』くらい、話の流れも何もかもが大変スマートな作品でした。
「どうでもいいシーンが長回しで撮影され、タルい」
「女子供がひたすら添え物・頭の悪い存在として描かれる」
「そんな場合や話でもないのに、隙あらばすぐ恋愛が……」
といった……私が苦手とする部分の少ない映画でした。
日本映画離れしているといっても、豪腕な大団円にもならないので、決して後味がいい話ではありません。
なので、これを見て「明日から仕事頑張れる!」となりうる魂の栄養ドリンク的娯楽作かというと「うーん……」なんですが。
パズルのピースが埋められていく爽快感、良いです。サスペンスですし。
主題歌の米津玄師「がらくた」も、エンドロールで物語の余韻を補強してくれる存在で、とても良かったです。
基礎力があると『ラストマイル』はもっと楽しめる
映画表題の『ラストマイル』は、物流システムにおける、お客様に商品を届ける最後の区間を示す言葉だそうです。
「ラストワンマイル」とも呼ばれますが、「最後の1マイル」という、距離の話ではありません。
そのためか、主人公チームは巨大物流会社の管理職側であるエレナと孔でも、最後のバトンを担う配達員・佐野親子が影の主役でもあります。
さて、食料生産基地・十勝は、どちらかというと送り出す側ではありますが、流通販売に関しては「六次産業」という単語が定着しています。
地元新聞でも普通に使われているのですが、馴染みがない人には本当に馴染みがないようで、つい当たり前のように口に出してしまうと、外の人からは「知らない……」と言われることがあります。(道外でも、同じように一次産業が強い地域の人には通じたり)
どういう意味か知らないけれど「気になる」という人は、ぜひ調べてみてください!
(ラストマイルが物理的距離の話ではないように、一次、二次、三次……六次という流れでの「6番目」の意味ではありません)
大事なことなので二回言いますが、そこで検索して「求める答えに自力でたどり着くことができる」基礎力がないと、『ラストマイル』は結構難しい話だと思いますので……。
全ての答えを明示しない(各人の解釈の余地を残す)ことで、人の口やSNSで触れられる機会も増えるだろうことが、意図した狙いかは分かりませんが、映画上映後、すぐにお連れ様のいる人達の間で「あれってどういうことだと思う?」談義が始まっていました。
中には、はっきり作中で答えは明示されていたことにすら「あれってどういうこと?」と言っている人がいて、同伴者さんすら呆れ気味だったんですが。
寝ていたとかではなく起きていて、答えの出ていることにすら引っかかる人には、難易度が高いだろうな、と思うばかりです……。
今回は十勝関連はこのくらい簡素に、このコラムは終わったものとして、1つだけネタバレ含む雑感を言わせてください!!
無駄なエピソードはない『ラストマイル』
一見回収されなかったかに見えたエレナの「比喩が下手」エピソードですが
あれって最後、自分で自覚をもって使いましたよね!!??
「爆弾はまだある」
映画を見ている側は、それまでの流れからエレナの目的も、比喩だということも分かるけれど。
そんなことを知らない言われた側は、比喩じゃなく物理だと思うと分かっていて、その比喩表現、使いましたよね???
それで、五十嵐(ディーン・フジオカ)が、駆けつけてきてバタバタ慌ててたんだと思うんですが。
(ロッカーのメモを見たことないはずの五十嵐が、事件の真相に気づいたのかは分からない)
3階から下を見下ろし、山崎の見た深淵が同じように見えたかのような五十嵐の表情と、管理職になって時間が経ったのか少し改まった服を着てくたびれた孔から、仕掛けられた『時限爆弾』を感じて不穏でした。
でもこれは私の感じたことで、正解とは限らないし、二度三度見たら別の感想が浮かぶかもしれない。
PROFILE
三崎 裕美子 | 腐女子 / 総統
1980年生まれ。北海道帯広市出身|釧路→新橋のサラリーマン(港区女子)→などを経て基本帯広で働く腐女子。「総統」と呼ばれた女。しかしてその実体は、身の回りの幸せ(美味しいご飯・趣味・脳内妄想など)で足るを知る小市民。十勝の観光文化検定(とかち検定)上級合格。同年生まれのハリー・ポッター氏が通うホグワーツ・スリザリン寮に組み分けされたかったゲラート・グリンデルバルド信奉者。