【書評】本の虫 小川の本棚 「遊園地ぐるぐるめ」presented by Book cafe & bar Sen 086

作品名：遊園地ぐるぐるめ
著者：青山美智子・田中達也
出版社：ポプラ社

夢のコラボ実現！？まさかのコンビの注目作品

この作品の出版情報を目にした瞬間、状況が飲み込めず、思わずフリーズしてしまった。

青山美智子さんといえば、『赤と青のエスキース』や『人魚が逃げた』など、数々のヒット作を生み出してきた小説家。一方、田中達也さんは、身近なものを使いながらユーモアあふれる作品を生み出す、ミニチュア写真家であり見立て作家。まったく異なるフィールドで活躍する二人が、どうやって一つの作品を？

混乱しつつも、もう少し情報を読み進めると、その仕掛けに驚かされた。

なんと、田中さんが手がけた各章の扉のアートを見て、青山さんが物語を執筆し、さらにその物語を読んだ田中さんが各章の終わりにアートを制作するという、まるでキャッチボールのような創作のやりとりが行われていたのだ。

そうして生まれたのは、物語も写真も余すことなく楽しめる、まったく新しい一冊。言葉とアートが響き合い、ページをめくるたびに発見がある、そんな特別な作品になっている。

 

遊園地が舞台の短編連作小説

この物語の舞台となるのは、「山中青田遊園地」。地元の人々からは「ぐるぐるめ」という愛称で親しまれている、どこか懐かしさのある遊園地。

物語は、ここを訪れるさまざまな人々の視点で描かれている。それぞれの思いを抱えながら、ぐるぐるめのアトラクションに乗ったり、園内を歩いたりするうちに、心の奥に眠っていた感情が揺さぶられていく。

全8章に分かれており、各章のタイトルは「メリーゴーランド」「ジェットコースター」など、どれも遊園地にちなんだものばかり。その内容も、心温まるエピソードが詰まっていて、読んだあとに希望の光が差し込むような感覚になるのが、この作品の大きな魅力だ。日常の中でふと立ち止まったとき、心にそっと寄り添ってくれるような物語が広がっている。

また、各章に共通して登場するのが〝ピエロ〟の存在。彼はまるで物語の案内人のように、短く、鋭く、ハッとさせられる言葉を発するキーマンとして、読者の心にも強く残る。

本書は約220ページ。文字のサイズは一般的な小説よりも大きめで、行間も広めにとられているため、学生から大人まで、スラスラと読みやすい一冊となっている。遊園地を訪れるように、ワクワクしながらページをめくり、心の中に新しい発見を持ち帰ることができる物語だ。

贈り物が生む、もうひとつの贈り物

ボクが出演しているコミュニティFMでも、この本を紹介させてもらった。その時はちょうど「ホワイトデー」のタイミングだったので、プレゼントにオススメしたい一冊として取り上げた。

しかし、実はこの物語の中にバレンタインデーやホワイトデーのエピソードが登場するわけではない。それなのに、なぜプレゼントにぴったりなのか？

それは、この本を読むことで、「プレゼントは受け取った人にとって、また新たなプレゼントを運んでくることがある」と気づかされたからだ。物を贈るという行為は、ただ「渡す・受け取る」だけでは終わらない。そのプレゼントが相手の心に何かを残し、新しい何かを生み出していく。そんな連鎖が起こることを、この本はそっと教えてくれた。

だからこそ、ボクはこの本を誰かに贈りたいと思う。この本が、その人にとって別の素敵なプレゼントを連れてきてくれると信じてやまないからだ。贈り物の価値は、ただの「モノ」ではなく、それによって広がる物語にある。そんな大切なことを、この本が教えてくれたのは言うまでもない。

内容も文章も読みやすく、さらにカバー写真まで楽しめるこの本。まずは自分へのプレゼントとして手に取り、次に大切な人へのプレゼントとして贈ってみませんか？

きっと、この本が新しい気づきや温かい気持ちを運んできてくれるはずです。

Profile

小川 洋輝 | ブックカフェ「Sen」オーナー
1985年、北海道幕別町出身。高校を卒業後、福祉施設にて勤務。知的障がい者の入所施設や就労支援施設、障がい児の通所施設の経験を経て一般社団法人青鳥舎を設立。 障がい者の親が安心して死ねる社会を創るために 障がい者雇用のコンサルテーションや障がい福祉サービス事業所のコンサルテーションを行う。2015年10月より自ら障がい児の通所施設を開設。障がい福祉や子育て関連の専門書などが並ぶブックカフェ「Sen（せん）」は2022年4月オープン。23年、絵本『やっちゃれ ほっちゃれ もっきっきー！』（みらいパブリッシング）か出版。毎週金にスマヒロで書評を担当

楽しく生きるためのヒントが詰まったこの１冊は、未来の自分に期待をさせてくれるかもしれません。